$OL-TIDE THE STORY FACTORY /オンライン小説/W-ZERO3/palm
2008-01-01T21:09:33+09:00
khmj
オンライン小説家 潮陽一郎W-ZERO3
Excite Blog
BLOG版 Realize 掲載完了しました。
http://soltide.exblog.jp/7032114/
2008-01-01T21:08:00+09:00
2008-01-01T21:09:33+09:00
2008-01-01T21:08:22+09:00
khmj
my feelin'
お暇な時にお読みください。]]>
虚構 → 現実
http://soltide.exblog.jp/7032099/
2008-01-01T21:05:14+09:00
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REALIZE 虚構→現実
それがやがてはただの流れては消える風景の一部でしかなかったと言う結論に達するのは我々ではない。きっともっとずっと先の遠い未来の子供たち・・・。
1998年2月7日 Realize (了)
2008年1月1日 BLOG版 Realize (了)
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次なるリアライズへの導入部(2)
http://soltide.exblog.jp/7032086/
2008-01-01T21:02:10+09:00
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khmj
REALIZE outroduction
このところ僕のオリジナルメニューは評判で注文されれば皿は犬になめられたように綺麗になって返って来る。この辺は僕も研究した。酒場の料理はある程度の見た目のボリューム感と実際のボリュームが大事なのだ。その辺が経費の節約にもなったりする。このところ僕はイタリアン・ピザにも手を出すようになり、生地から作るのに手を焼いている。今はマルゲリータとビアンカだけだけどその内もっとオリジナリティを出そうと考えている。ただ具に使うツナに合うもう一品があれば・・・。
「余計なお世話だけど進学のこととか考えなくていいのか?」とバイトの兄さんは最近よく営業が終わった後の片付けの時に僕の進学のことを聞いてくる。僕のことを心配してくれているんだろうけれど本当の所、兄さん自身の将来のことが心配で僕を使って不安を消そうとしているんだ。きっとコロンボからこれからの景気のことを聞かされたんだろう。大氷河期とやらのことを。
「今はまだ考えないですよ。まだね」と僕は答える。それ以外に答えようもない。「そっちこそ将来はどうするんですか?」
「のんびり屋だな。ま、人のこと言えないんだけど。俺か?実は俺もよくわからんよ。サラリーマンが嫌だとか、就職が厳しいとかじゃなくてさ。まだやりたいこともわからないんだ。親に叱られるかも知れないけどしばらくは何処かに旅でもして、色んなこと見てみたいよ。俺みたいな奴が言うのは月並みだけどね」
「彼女は?ついて来てくれるんですか?その旅に」
「さあね。でも俺の言うことは理解してくれと思うよ」
「・・・そうですね。理解してくれるといいですね」と僕は言った。
「・・・もう今日の授業はつまんないからどうでもいいよ。え!?、ああ、そう。英語。どっか遠くに行くのもいいけど・・・。そうだ!『ニキータ』を観に行こう。今日から池袋でやるんだよ。ほら、ベッソンの。殺し屋の。そう、前バイトで働いてたところ。ただで観れるかも。うん。じゃあ、そうしよう。メット、僕の分も忘れないでよ。うん、じゃあ、あとでね」と僕は受話器を置き、学校の玄関の外にある電話ボックスを出た。久しぶりに晴れた空は気分まで晴らしてはくれなかったけれど、ポカポカした陽気のおかげでちょっとはましな気がする。外はまだ寒く、これが二月、三月になればもっともっと寒くなるだろう。雪の降る日もあるだろう。手と手をあわせると自分の手の冷たさがわかる。僕は暑さには強いけど、寒さには弱い。この季節はいつも手足が冷たくなって身体の動きが悪くなってしまう。
僕は玄関前を歩きながら色んなことを考えた。自分のこと。他人のこと。死んだ友達やまだ生きている友達。学校や社会。父母。いつも考えていることさ。僕がどれだけ勝手な人間かもわかっている。何から何まで考えた末に行き着くと僕は彼のことを考える。
彼と出会ってからの出来事は本当に現実の出来事だったのだろうか?何回自問しても何回自答しても彼が何故死んだのかについては結論が出せない。なにも死ぬことはないじゃないかと思うだけだ。彼は僕に何をもたらしただろう?何がしたかったのだろう?本当のことは彼の口からは何一つ聞いてはいない。あれほどのことがあったにも関わらず彼を恨む気持ちになれないのはきっと僕は彼のことが好きだったからだ。彼は僕の友人だ。それに間違いはない。クロックが最後に語った話しはどこまでが真実でどこまでが事実でどこまでが嘘だったのだろうか?全てが現実だったのだろうか?それとも僕の脅迫観念が生み出した壮大にして馬鹿げた妄想だったのだろうか?僕は逆らい続けたのだろうか?それともただ踊らされ続けたのだろうか?いや、考えるまい。僕は首を横に振った。今の僕にとってはもうどうでもいいことだ。過ぎてしまったことだ。
僕の日常は何事もなく順調に経過していた。ただ、ポッカリと開いたこの胸のどこかにあるわずかな空洞だけは到底埋まりそうになかった。
キドリはようやく退院したらしいが、その後何をしているのか知らない。噂では鑑別所に行ったとか行かないとか。今度は精神病院に行ったとか行かないとか。
オウムはクラスの連中から裏切り者扱いされ今や書記長たちより下位のランクに位置された。
ペーは学校を卒業したら入隊するというもっぱらの話しだ。
そしてクロックの死は学校中の女の子を悲しませた。
あの夜。RZで転倒してエデン公園の道に倒れた僕を介抱してくれたのは単車で駆けつけた幼なじみの彼女だった。クロックから東京エデンに来いと言われた彼女は僕を心配してやって来てくれた。
「一体何があったの?ねえ、この人。倒れて死んでる人。あたしのバイトにいた人。あたしによく夢判断してくれた人。どうしてあなたと一緒にいるの?あたしもどうしちゃったの?この間のイブの夜はあたし約束すっぽかしちゃってるし、その後もあなたのこと忘れかけてるし、いつの間にかこんなに髪を切っちゃってるし。どうなっちゃってるの?」彼女は僕を介抱しながら半ば取り乱していた。
クロックは彼女に恐るべき魔法をかけていた。彼女に接近し徐々に言葉の魔術で彼女をコントロールしていたのだ。時折、僕が見た夢はそのことを暗示していたのだろうか?もっと早く気づくべきだった。どうやらクロックが彼女をフルにコントロールしたのはやっぱりあのクリスマスイブの時らしい。彼女はあの夜以降のことはクロックから電話があるまでよく憶えていなかったらしい。イブの日のお昼くらいまではウキウキしていたのに、気がついたら倒れた僕のそばにいて髪が短くなってたと言うのだ。空白の記憶の間にも彼女は普通通りの生活を送っていたらしい。ただ記憶にないと言う。クロックの術はこれから先彼女にどんな影響を与えるか知らないけれど、彼女の笑顔を見る限りはもう大丈夫だろうと思った。ついでにもう一度髪のことを誉めた。彼女はあの時より嬉しそうな顔で喜んでくれた。
エデン基地のそばで起こったあの事故は警察より先に軍が処理した。僕の顔を憶えていた兵士の一人がコロンボに連絡してくれたのだ。コロンボは基地の兵士を指揮して事故を上手く処理してくれた。ウォルトの計らいで僕のことは表沙汰にならず、クロックの事故死だけが取り沙汰された。検死の結果からのことだがクロックの体内からは何かの薬物が検出され、それが事故の原因だったと言われている。コロンボの入手したサラマンダーの顧客リストの中にその名があったらしい。
クロックは何故あの場に彼女を呼んだのだろう?僕から全てを奪おうとしたはずなのに。それにクロックが押したリモコンの中には電池が入ってなかった。クロックがそんなミスを犯すとは思えない。しかし、僕が見たあの光景が僕の中に刻まれたとするのなら、彼とクロックの目論見に僕はまんまとはまったことになる。
ウォルトは僕の話す全ての事情を電話で聞きながらも、その全てを聞き流していた。ギャッツをなくしたショックのせいか、僕の話しを理解したとは思えない。その話しの中でウォルトはリモコンを僕の好きにしろと言った。僕はリモコンを学校の万力にかけて粉砕してゴミ捨て場に捨てた。
コロンボは全てを話さなくてもいいと言った。僕がこれまでのことを全部説明する。今まで起こったことがどういうことなのか全て話すと言ったのにコロンボは首を横に振った。
「どういうことですか?」と僕は聞いた。「何故聞こうとしないんです?」
「いえね、この一連の事件があ~ただけを中心に起こっていることならそれでいいんだと思ったんですよ。元々この事件はあ~ただけののものだったと考えればあたしらはそこに首を突っ込むことはないとね」
「いいんですか?その変な理屈で?そんなことを殺人博士にも言われましたよ」
「ま、妙な殺人事件は起きましたが相変わらず会社は順調だし、他でも忙しいことが起きてるし、あの一連の事件の全てを知らなくても特に何も変わりませんよ。もう誰も調べろとも報告書を書けとも言いませんし、あたしの胸に秘めときましょう。すぐ忘れそうだけど。もう過ぎたことです。彼が何処に消えたのかも、その理由も闇の中。焼身自殺したのが誰のなのかも闇の中。社長の息子が人を殺したのかも闇の中。トンネルでの爆発事故の原因も闇の中。社長の息子が死んだ本当の理由も闇の中。あ~たの御学友であたしの弟の先輩が薬でラリッて事故った本当の理由も闇の中」
「事実を隠蔽してばかりだ」と僕は吐き捨てるように言った。
「でもそういうもんです。物事には色々な面がある。嘘もある。予兆もある。事実を並べただけのものもある。真実という面はたまたまそこに顔を出しただけです。時には見えなくなる死角になる面もあるんですよ。それを隠蔽と言うか影と言うかは見る人の心がけですよ」
「事実が光に当てられた時に映る影」と僕は言った。
「そう。上手いことを言いますな」とコロンボは同調するように笑みを浮かべた。
僕はククッと笑った。
「あのサイボーグがあたしのことを『死神』と言ったのを憶えていますかな?」とコロンボは笑っていたけれど急に声のトーンを落とした。
「え、ええ」僕はそれにちょっと戸惑った。
コロンボは穏やかな顔つきで『死神』のことを話し始めた。
「あれはね。まだ、『XJ』が、自衛隊の特殊部隊が秘かに存在していた頃の話しです。当時のあたしらは何をやっても隠密活動でね。日の目を見ん、血生臭い仕事ばかりやってましたよ。ここじゃあ、その内容を言うのは控えますよ。あ~たのあたしを見る目がますます変わってしまう。その任務以外は厳しい訓練訓練訓練・・・。隊長は人殺しすぎて頭がおかしいし、あたしの後輩たちもおかしくなりかけてた。あたしも自分が正気かどうか不安でした。国家に盾つく奴は片っ端から始末してましたから。いつかこんな仕事辞めてやるって思ってましたよ。訓練中なんか何度脱走しようと思ったことか。脱走すればもちろん処分されます。処分、つまり無条件の死刑です。
あれは軍設立のちょい前の年です。青森の方の里からかなり離れた山々でのサバイバル訓練の時でした。『XJ』の部隊員は全部で三十人くらいでしたがそのほとんどを引き連れての大がかりな訓練でした。あたしは副長補佐で部隊じゃあ三、四番目のポジションだったから部下たちの面倒を見なきゃならん面倒な役目でした。訓練期間は十日間。みっちりとスケジュールが組まれていました。それこそ食料はそこらの草や獣の肉を自分で調達するんです。これは厳しいですよ。
あの事件はその訓練の総仕上げの段階で起きました。
敵が山の反対側にいると想定しての殲滅作戦です。あたしとその部下たちは後発の偵察部隊として行動を取っていました。季節は冬。雪ビュービューの豪雪地帯。凍えて死ぬかと思いました。
隊長からの連絡はあたしを驚かせました。なんと先行しているチームからの定期連絡がないと言うんです。隊長は気が動転してんだか何だか知らないけど脱走だ脱走だと叫びます。チームを率いていた奴は割としっかりしてる奴だから連絡を怠ることも考え難かった。
隊長は早速先行チームを追えと指令を出した。散らばっているチーム同士の位置関係からするとあたしらのチームが一番近かったんです。あたしは一旦本部のテントに戻ると言ったんですが、隊長切れちゃって取り合ってくれませんでした。でもさすが隊長。言うこと聞いてて良かったですよ。
副隊長はまず隊長を殺しました。最初の脱走兵はオトリだったのです。脱走計画は副隊長を中心に練られたものでした。副隊長はあらかじめ脱走メンバーを選りすぐり、海外に逃げるつもりでした。秘かに握った機密を当時の共産圏に売るつもりだったんです。副隊長は頭が良くて切れる男でしたが、かわいそうなのはそそのかされた若手たちでした。いいか悪いかもわからずに乗せられたんですから。
あたしが部隊のキャンプの異常に気づいたのは副隊長が隊長を射殺して一時間くらいのことです。定期連絡をしても全然通じないんですからおかしいと思いますよ。
そこからがあたしの追跡行の始まりです。部下を連れて東北の凍えるほど寒い山中を歩いて歩いて歩き抜きました。あたしら『XJ』の行動は超極秘ですから何処にも連絡できない。自分たちで始末をつけなくては。訓練とは言えこれは任務の一環。『XJ』に脱走者は許されないんです。
五時間にも追跡の末、やっと副隊長一派を発見しました。
連中は村の連中に見つかったらしく、仕方なく村人全員を人質にとって村で夜を過ごそうとしました。普通なら誰にも見つからないようにやるのがセオリーですからね。見られたのが連中の不運でしょう。見ちゃった村人たちもね。
あたしはそこで副隊長とその補佐を狙撃しました。二人にはちゃんと二発づつ当たりました。即死です。
頭を失って完全にパニック状態になった残りの若手隊員たちの行く先は決まっていました。行く先に見える動くものは全部敵でした。人質のはずの村人たちはいつの間にかお遊びの道具になってしまいました。しまいには同士討ちです。
結局生き残ったのはあたしとあたしの部下含めての四人でした。三沢の基地に戻った時には自分でも状況を人に説明するのが難しかった。頭が混乱してたんです。部隊の半数が脱走を企てて、殺し合いをやったなんてなかなか信じてもらえんでしょう。後で聞いてみるとやはり、脱走兵たちはその場にいた村人十数人を皆殺しにしてました。女、子供、老人。構わず皆殺しでした。もちろんこんな不祥事、公表するつもりは政府はありません。村を封鎖してでっち上げを始めました。
最終的に政府は穴持たずの熊にやられたと発表しましたが、ありゃ嘘です。本物の熊を使って派手にお芝居してましたがみんなデタラメです。後に雑誌がスクープとして取り上げるのは全然別の件でした。あの事件を知っている者は今じゃもう殆どいないでしょう。そう考えるとあのサイボーグは相当『シンクレア』に入れ込んでたんですな。あんな昔のデータを引っ張り出してまでコトを起こそうとしてたんだから。あたしも冷っとしましたよ。何を言い出すかと思った。あの時は。きっとあなたも驚いたでしょう。そんな風に見えないから」
僕は頷いた。
「しかし、このことはあんまり人には言っちゃダメですよ。あの『XJ』の脱走事件はウルトラトップシークレットなんだから。喋るだけで自分の身が危なくなることは間違いなしです」
「そう言いながらまた否応なく僕に話してますよ。僕の身は大丈夫ですか?」
「おおっといけない。・・・ま、大丈夫でしょう。いざとなればまたすっ飛んで来ますよ」
コロンボはそう言ってまた何処かに行った。きっとまた僕を驚かせるように現れるのだろう。
僕は喉が渇いたのでジュースを買いに販売機まで行こうとした時に玄関横に転がっている泥だらけのサッカーボールを見つけた。たぶんおとといの雨にやられまま放ったらかしになった奴だろう。僕はボールに近寄り、コロコロとボールを転がしてみた。泥自身はもう渇いて固まっていた。けれど靴が汚れるから大胆にボールを触るわけにはいかなった。
なんだか急にボールの汚れを落としたくなった僕は軽くドリブルして外に出た。転がすごとにボールについた泥はポロポロ落ちていく。僕は靴が汚れないようにチョンチョンと爪先でドリブルを続けた。
校舎をぐるっと回って辿り着いた先は、やっぱり中庭だ。囲いを作る樹々は葉を全て落とし無数の枝だけが網のように重なり合っていた。淡い日差しが僕の影を作る。地面の落葉は誰も掃除しないまま山のように重なり散らばっている。見れば壁の汚れは今も健在だ。彼と僕がつけた壁の汚れだ。僕はまっすぐ壁を見つめ、ふいにボールを蹴ろうと思った。狙いを定めると、彼の言葉が思い浮かぶ。「その順番はきっと誰かに巡るんだ」「強いイメージ」僕に足りないもの。クロックが僕に忠告する。「この世界はもうすぐ終わる。それは誰にも止められない」ウォルトは殺人鬼を自分かも知れないと言う。「次なる者へのステップ」ギャッツ。「死にたい俺、死ねない俺」ゾロリッ。僕の中で炎の蛇が再び胎動し始める。僕は誰よりも先に気づいている。この情報と虚構で構築された世界で誰よりも先に気づいている。ありもしない幻想や夢や希望や人生観や結婚観や進化論や唯物論や法則や天則や運命や必然や偶然や方程式や経済システムや食物連鎖や超高層ビルや地下都市計画や宇宙移民計画や月面着陸や声紋自動ロックや眼紋金庫や二十四時間年中無休や皆勤や無断欠勤や名作映画や戦争映画やブランデーやバーボンやビールやベストセラーの本や自費出版の本やインディーズやエルビスやジョン・レノンやバンドやディスコやバーやアミューズメントや缶コーヒーや缶ジュースや電気カミソリや入浴剤や電話や誰かに伝えたい想いでさえ、そんな想いでさえ基盤としたこの世界で僕ははっきりと口にすることができる。
僕は誰より先に気づいている。
そんなもの自分の目で確かめた奴なんて誰もいやしない。
みんな自分の家にあるちっぽけな箱の中のちっぽけな映像が記憶に残っているだけの話しなのだ。昔誰の手元にもあったハーモニカの吹き方を忘れた奴には一生そのことはわからない。僕は誰にも聞こえない小さな口笛で小さくメロディーを奏でる。鼓動が高鳴る。一瞬だけど自分が大気に融け込み拡散しようとする。来る。僕の中には未知のエネルギーが人知れず眠っている。それも世界の息の根を止めるほどの強烈で残虐なパワーだ。放出。まもなく何かが始まるだろう。拡散。その何かは人々を恐怖の穴に誘い、飲み込んで行くだろう。逆らえぬ人々は唯一残された希望の女神に全てを託すだろう。叶わぬ希望が人々を弱く脆くさせていく。その時こそ女神像は爆破した方がいい。あんなものが全てを駄目にするのだ。最後の望みを絶たれて立ち上がるものが次なる者だ。耐えること、生きることのできない人間は死ぬだけだ。リモコンはもうない。だが、時が来れば間違いなくそれはやって来るだろう。逆らえぬものには絶対逆らえないのだ。祈りの結晶は果たされぬまま昇華するだろう。人が滅亡を望むならそれでもいい。それが正しいならそれもいい。あの女神像のように僕の喉を通ってやがて口から手から足から吐き出される。僕の身体を突き破り、それが這い出る。クロックの言った話しは本当だ。僕の中に眠る蛇は僕の意志で天空に解き放たれやがて世界中のありとあらゆるシステムを停止させるだろう。
その時クラクションが鳴った。誰かが僕を呼ぶ。誰だ?僕を呼ぶのは誰だ?
やがて宇宙規模にまで拡散した僕はその呼び声に反応して急激に収束した。僕は限りなく小さくなる。惑星ほどの大きさの一粒の電子を目前にしてその火花のゆらめきを確かに見た。
呼ぶ声に応えろ!
まぶたを開くとフェンスの向こうにエンジン音を轟かせ僕が譲ったバイクにまたがる彼女がいる。子供の頃から知っている僕の大事な女の子。僕を呼び、必要としている人。ヘルメットを脱ぐ彼女、ショートカットがよく似合う。胸元には僕のプレゼントが光輝く。片手に僕のヘルメットを持って高く振り上げる。僕も手を振る。
「お待たせー。どうしたのー。怖い顔しちゃってー?」彼女は手を口に当て、声を上げる。
「何でもないさー。待ってすぐに行くよー」
「ほらそうやって笑顔でいるのが一番いいのよ。あなたは、わかってるの?」
彼女の小さな声は聞こえるはずなんかなかったのに何故か聞こえた。
僕はボールに向き直り、一瞬目をつぶった。短い助走で僕は思い切りボールを蹴った。爪先から伝わるボールの感触は今までにない確かなものだった。
ボールは雲一つない空に高々と上がり、やがて壁の向こうに消えた。
僕は走って彼女に近づく。僕はフェンスによじ登り、そして軽やかに飛び降りた。]]>
次なるリアライズへの導入部(1)
http://soltide.exblog.jp/7032074/
2008-01-01T21:00:14+09:00
2008-01-01T21:00:14+09:00
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khmj
REALIZE outroduction
年が明けて、各国首脳は全面軍事解決を回避すべくイラクに対して様々な提案で交渉を行ったが、どれも廃案となり撤退期限は刻々と迫っていた。多国籍軍は空と海を固め、世界の注目を集めていたが、多国籍軍の勝利は誰一人疑わなかったろう。お祭り騒ぎはいつでも大勢のほうが楽しいのだ。
バンッ!
「いいか、お前ら。あと残り一年で受験だ。いよいよだぞ。一年なんかまだ先だなんて思うなよ。一年なんてあっという間に過ぎてお前らは試験会場に一人で座ってるんだ。周りに人がいても、お前たちは一人だ。孤独なまでに一人だ。時間の大きさ小ささ長さ短さは振り返ってわかるんだ。問題を目の前にしてあれこれ悩むんだ。一年を後悔するんだ。一年に泣くんだ。顔も知らない周りのそいつらは敵だ!問題を目の前にして死にそうな気分を味わうんだ。フンッ。それに苦労して時間にせっつかれて解けた問題が正解だと思うなよ。結果が出たとしてもそれが正解だと思うなよ。どこでどう計算間違いしてるかわからんぞ。見直せ。見直せ。見直せ。時間の限り見直せ。どこで憶え違いをしているかわからんぞ。ホラッ、そこ!お前だ、お前。お前みたいなのがそういうタイプなんだよ。馬鹿面したお前がそうなんだよ。聞いてろ!バカモン!いいか、お前ら。こんなことして一体何になるんだなんて思うんじゃないぞ。コラッ!前を向け。シャベルな!そう思った奴から足元をすくわれていくんだ。そう考えて理屈ごね出したらおしまいだぞ。それが当り前なんて思うなよ。逃げ出したい奴は決って、自分の状況に疑問を抱いた振りをして言い訳を考えるんだ。適当な屁理屈こねて社会が悪いと言い出すんだ。フザケルナ。いいか、お前ら。逃げたい奴はとっと逃げろ。他の奴はそんなたわごとに構ってやれるほど暇じゃないんだ。オレも学校も暇じゃないんだ。自由を気取ってこっち側に刃向かいたいなら学校なんかやめて親とも縁を切って一人で稼げ。一人で暮らせ。自分のわがままを学校に持って来るんじゃない。あいにく学校はそんなところじゃないんだ。幻想を抱く者が来るところじゃないんだ。いいか、お前ら。生きるってことは毎日が今みたいに真剣勝負なんだ。毎日が試されてるようなもんなんだ。これで、この場の思い一つで人生全てが決まるかも知れないんだ。お前らはいつでもどこでも分岐点に立ってるんだ。お前らの分岐点はいつも目の前を通り過ぎてくんだ。そしてうまい話しほど二度目はない。いいか!お前ら!わかったな!?」と隣の席の女の子は一字一句間違えずこの間の数学教師イヤラシのヒステリックな御高説を真似をした。おまけに身振り手振りも真似る凝りようだ。僕をビシッと指さす。
僕は呆れながら彼女の熱演に拍手した。彼女は放課後の誰もいない教室に僕をつきあわせ、壇上から僕を見る。「来年も今のままでいられると思うなよ」
色々変わってしまった僕の周りで、何も変わらないものの一つが隣の席の女の子だ。
隣の席の女の子は相変わらず僕をからかうように話しかけ、たまに僕の気分を紛らわせてくれた。彼女は僕と生涯の友達でいたいが為に僕とは近すぎず、遠すぎずの距離を保ちたいと言った。あなたが結婚しても愛人でいいってわけじゃないのよと彼女は言う。当り前だ。僕もそれには賛成だった。きっとこの先違う場所で生きていこうと僕と彼女はお互いの存在を感じながら生きていくだろう。あんなことがあったのだ。あんな目にあったんだ。少なくとも僕は忘れないと思う。
「本当にこれで全部終わったのかしら?あんな色々なおかしなことが去年あったなんて信じられないわ。二人ともどうかしてたのかな?」と彼女は言った。
「さあね。わからないよ。でもどうだっていいじゃないか何から何まで決めつけなくても」と僕は言った。
僕がそう言うと、彼女は「あっそ」と言って、でもどうかしらとという顔をした。「ま、どうでもいいか。・・・ねえ、最近顔色いいじゃない?何かいいことでもあった?彼女と上手くいってるの?」
「そうかな?特にどうもしてないけど」と僕は言った。
「また、そういう言い方して。気取っちゃって。どうして私が聞きたいことを答えてくれないの?自分のことを話さないの?直そうとか思わないの?」彼女は怒った口ぶりで僕を困らせようとした。彼女はわざとそんな風に言って僕をからかってる。だから僕はいつものように答えた。
「いや」
「ふふ、バカね。嘘よ。そうよ、あなたはそうやってガンコジジイみたいに意地張ってた方がお似合いよ。あなたは生まれ変わってもたぶんずっとそういう人なのよ」
「僕もそう思う」と僕が素直にそれを認めると隣の席の女の子はやけに大きな声で笑った。
「先輩、いいですか?見てて下さいよ」
直伝後輩は誰もいない土曜日の昼の体育館で僕に向かって叫んだ。僕は直伝が向き合っているゴールの真下で大きくうなずいた。ほんの数秒の間をおくと直伝はセンターラインから矢のようなスピードでドリブルし、ゴール下数メートル手前で押さえつけたバネを解放するようにジャンプした。その素早さと華麗な跳躍は見る者をあっと言わせるほど大胆で力強い。
一瞬の滞空時間。吹き抜けるささやかな風の音。
ドカンッ!
豪快な音と共に直伝はボールを右手で叩き込み、片手でリングにぶら下がった。そしてまだ揺れるボードの振動が低く耳に残った。
「見ました?」着地した直伝は前髪をかき上げながらガッツポーズで僕にアピールをした。
「見た。凄い」と僕は率直に言った。
「なんか、あんまり凄そうじゃないみたいですね。せっかく最近あの距離で決まるようになってきたのに」直伝は息を切らしながらがっかりした。首筋に汗が一筋伝う。「ダンクですよ。ダンク。知ってます?」
「いや、本当に凄いって思っているさ。僕にはできないもの。知ってるだろ?球技はメチャクチャ苦手なんだ」と僕は弁解したがどうも言い訳がましくなってきた。
「どうだか・・・」と直伝は肩を落として悔しそうな表情をした。
僕は証拠を見せるためにバスケットのドリブルをしようとしたら直伝は「いいですよ。無理にやらなくても」と言った。僕はわざとすり寄るようなドリブルしながら直伝に挑んだ。直伝は笑いながらあっさりボールを奪った。
僕はムキになって今度はボールを取り返そうとするが、直伝の全国ドリブルは僕の手を全く受けつけない。まとわりつくように身体を寄せても跳ね返されてしまう。そして強引に抜き去り再びダンクを決めた。今度は楽々とボールを放り込んだ。
「ほら次は先輩ですよ」と直伝はけろっとした顔でボールを僕に放り投げる。そこからはしばらくの間相当ハンデの必要なワン・オン・ワンが始まった。かろうじて僕は何点かシュートを入れたが、それ以外は直伝は容赦なくゴールする。何度も喰らいつこうとするが直伝の稲妻のようなドリブルにはかなわない。
僕らはかなり汗をかくまでワン・オン・ワンを続けた。いや、僕の方が大量にかいている。何十点目の直伝のシュートが決まったところで僕の気力も萎えた。足から崩れ落ち床に寝転がった。ビショビショの汗がシャツにへばりつき、気持ち悪い。
直伝は歩きながらのドリブルで僕に近寄り、そばに座った。
「疲れた・・・」と僕は言った。正直な気持ちを言った。
「先輩。今年の夏は、今のこの他愛ないゲームが自慢できるようになるほど俺有名になりますよ」と直伝が言うと僕は無言で頑張れよと言った。僕の知合いの中でも直伝ほど頼もしい奴はいない。きっと直伝は自分の望みをかなえるだろう。
直伝のそばにあったボールは風にあおられてコロコロと転がり出した。二人ともそれを取りに行く気力はなかった。
「ところで・・・先輩・・・」と直伝は神妙な顔をした。「先輩はあんなことがあったのにたいして落ち込んでないように見えるのは俺の勘違いでしょうかね?」
僕は直伝の言葉にピンときた。直伝が何を言いたいのかもわかった。
「ん、そう見える?」
「ええ」と直伝はうなずいた。
「冷たいって思う?」
「いやそこまでは。むしろ悲しむばっかりの先輩は見たくないし・・・、それに俺だってあんなに世話になったのに、今じゃたいして悲しい気持ちにはなりませんでしたよ。不思議なことに。何というか、・・・やっぱりうまく言えないや。こんなもんなのかな~。知合いが急にいなくなるのって」
午後の風は体育館を通り抜け、僕たちさえ通り抜けた。シャツの袖がなびく。
直伝は立ち上がり、ボールを拾いに行ってから3Pのラインに立った。僕に向き直り、「先輩ここからシュートできます?」
「たまに入るけど確立は相当低いよ」僕は身体を起こして言った。さっきまで噴き出していた汗はおさまったようだ。「十球に一球くらい、それも入るか入らないかの確率」
「教えて上げますよ。コツさえわかれば簡単ですよ」
僕は直伝のそばに立ちフォームと投げ方を教わった。自分の全身をバネのようにイメージして下さいと言われた。
「膝が命ですよ」
僕は構え、遥かなゴールを見つめる。宙に浮くその栄光の輪は近いようで遠い。僕は自分の投げる姿を目をつぶってイメージする。
「あとは、力まず放り込むだけ」と直伝が言った。
目を開き身体を伸ばそうとする時、僕はそこでやめた。
「やっぱりやめとくよ。帰ろうぜ」
僕は直伝にボールを放って渡した。
帰り道に直伝はおかしなことを聞いてきた。
「先輩、あの人は先輩の彼女なんですか?あのナンバー1と噂される、勇敢で無謀にもバザーに乱入して来た人」と半信半疑の顔だ。昔の話しだよと言ったら相当驚くだろうな。彼女に言わせたらこれかららしいけど。
「違うよ。それは誤解だよ。誤解。無責任な噂が一人歩きしてるんだ。噂くらい自分で吟味しろよ。騙されるぞ。それより知ってるぜ。そっちは同じクラスにいるメガネをかけた可愛い娘に気があるんだろ。頑張れよ」
「やっぱり先輩は不思議な人だ。誰も知らないはずのことを何故か知ってる」と直伝は呆れた声で言った。]]>
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http://soltide.exblog.jp/7032018/
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khmj
REALIZE 第2部
僕はとっさのことに止めることもできなかった。一体どうなるんだ?リモコンの有効範囲は半径三百メートル。ここから見える女神像までの距離も約三百メートルくらい。距離的にはギリギリだ。僕は息を飲んだ。やはり手遅れか?そんな不安が僕を襲う。
しかし、二分くらいの時間が過ぎても、何も起こらなかった。それこそすぐに爆発があると思った。発案者のウォルトがわざと時間差をつけるようなものを考えるとも思えなかった。ウォルトなら爆発まで十秒の猶予も与えないものを考えると思った。
つまり、クロックの行為は不発に終わったか・・・。
公園はやけに静まり返っていた。僕とクロックが騒がしかっただけに、静けさが耳に痛い。クロックは僕の足元で息絶えたようだ。リモコンを握ったまま死んでしまった。僕は哀しいのかどうかもわからず天を仰いだ。僕はこんな時どんな顔をすればいいのだろう?
夜空の星座たちは僕を何処に導いてくれるだろう?星座・・・。星座・・・。星座?
僕はそこで異常に気づいた。空はさっきまで冬の星座に埋め尽くされていたのに、今は・・・、今は一つもなかった。満天の星空は完全な闇のカーテンに変わっていた。どういうことだ?
丘の向こうからやって来る大勢の人影が見えた。彼らはエデン基地の兵士だろうか。僕は隠れることも逃げることもしなかった。こうなれば僕が全てやったと言うしかない。警察に引き渡されて尋問を受けるなら取調官は殺人博士がいいな。彼なら僕の言うことを信じてくれそうだ。
人影は徐々にこちらに近づいて来るが、彼らは物音一つ立てずに歩いて来る。次第に見え始める彼らのシルエットはとても兵士のそれに見えなかった。彼らは何者だ?でも時折、ザッザッという軍靴の音が聞こえる。連射する銃声も聞こえる。女たちの悲鳴も聞こえる。一体何処で起きているんだ?この音は何処から来るんだ?突然、静寂があった。無音と風の嫌な静寂だ。僕の背中に冷たいものが走り、ざわざわと嫌な予感がした。
静寂は一瞬だけだった。突然地面が大きくガタガタと揺れ出し、闇のカーテンをさらに黒い雲が覆いつくした。鋭い稲妻は大気を切り裂き轟音が響く。海は荒れ、暴風が木々を薙倒す。人々は寝静まる世界から目を覚まし女神像に祈りを捧げる。彼方からやって来るのは兵士じゃない。あいつらは『プレイヤー』だ。祈る者たちだ。彼方からの祈る者たちは僕を無視して通り越し、何万という列をなして女神像に無限の巡礼をしていた。巨大な輪を作り、止まろうとしない。
その時は来た。大勢の人々が自分の純粋なる祈りを女神に傾ける。祈りのパワーは巨大だ。それのみでは何にも役に立たないのに、何かと結びつくと何倍にも増幅される。
それに呼応するかのように女神は胎動し、光をわずかに放つ。
すがる者共よ!
諦めた者共よ!
腐りきったお前たちは誰かの嘲笑を受け、そのまま死んだことに気づかない愚か者だ。祈れ、祈れ、祈れ。その何にもならない行為を尊ぶがいい。
一人の賢者はそう言った。ただ誰も聞く耳を持たなかった。
女神の光。人々はその奇跡を見て歓喜する。手を叩き、声を上げ、感謝の涙を流した。だがそれは間違いだ。あの光の真の目的はお前たちの望むそれではない。女神から発せられる光は刻々と増大し、目を開けられぬ程まぶしかった。やがて女神の腕は崩れ、首が折れ、女神像は内部から崩壊した。足元にいた祈る者たちは崩れた残骸にあっさり潰された。周りの者はそれに気づかずに巡礼を繰り返す。また、潰される。しかし、尚もその核にあたる部分は輝く。その白くて大きな光は徐々に膨らみながらゆっくりと人々を飲み込み、街を飲み込んだ。それから音もなく湾岸一帯を跡形もなく一瞬で消し去った。それは僕が見た中で一番すさまじい破壊の光景だった。静かで瞬間的だったが、何もかも消し去ってしまうのだ。それだけでは全ては済まなかった。女神像の崩壊はほんの前ぶれだった。
世界のどこかから戦火は起こった。最初は小さな争いだった。ほんの小さな憎しみがきっかけだった。でもその小さな争いは誰かを巻き込みながら、やがては大きな争いになった。賢者と愚者はいつでも予言に当てはめる。民衆はその言葉を鵜呑みにする。嵐が全てを吹き飛ばす。地面が割れ全てを飲み込む。津波は途切れることなく街を襲い。不安が不安を呼び、更なる争いが誰かを巻き込む。争いは終わらない。殺戮と破壊。暴風雨と流れ出る生命。一発のミサイルがどこかの街に落ちた。赤い閃光が十字に走り、厚い雲を貫く。
巨大な炎、光、銃弾、怒り、憎しみ、悲しみ。それらは僕の前に広がり僕の中に確実に刻まれていった。]]>
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2008-01-01T20:46:17+09:00
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khmj
REALIZE 第2部
絶対的な運命。
僕は痛みに苦しみながら自分の胸の苦しみを感じていた。否応ない強烈な重圧がかかる。僕に眠る炎。僕の役目。一体誰がそんなこと決めたんだ?僕に断わりもなくそんなことして。僕は昔から何かを任されるタイプじゃないんだ。思ったことをやり遂げたいだけなんだ。マイケルは、「僕は何かのために戦うことで生命のメロディーを感じるんだ。歌うみたいにね」と言った。ウォルトは創造の次に起こる破壊について熱弁する。ストリートは自分のヒーローを追い求めた。叔父さんは自分の最後の場所があればいいと言った。ギャッツの言葉を思い出す。「お前がやるんだ」わかったよ。ギャッツ。まだ諦めちゃいないさ。僕は起き上がり「諦めてたまるか」と言った。
僕は階段を駆け下りると玄関に飛び出るとクロックはハーレーに跨り、既に学校を後にしていた。僕はRZのエンジンをかけ、すぐに走り出す。今からで果して間に合うだろうか?クロックに追いつけるだろうか?
僕は単車で走りながら感じていた。自分の中に流れ込む意志を、感情を。それはいつ如何なる時にでも僕の周りを取り囲む泡のようで液体のようで粘性の低いさらりとした水や空気に近い何かだった。そうだ、僕はいつだってやることは水準以下だったけれど誰よりもベストを尽くしていたさ。後悔するのはいつだって自分じゃなくて途中リタイアの友達隣人モドキ共だったさ。追求することを諦めた奴らの嘆きはもう聞きたくない。それならそれで死んだ方がいい。ウォルトは言っていた。『ψガン』が発動すればここら一帯は全てが吹き飛ぶ。クロックは僕は死なないと言った。僕は何があっても死なないのだ。でも万が一そうでないとしたら僕は『ψガン』のエネルギー放出にやられて消滅するだろう。僕は死ぬんだ。そうはさせるかという気持ちが僕の単車をもっともっと加速させる。
学校から東京エデンに向かうのに近道はない。国道一号をまっすぐ突き進み、エデン通りに入るだけだ。しかし首都高速で行く方法もある。この時間なら高速も空いてるから、時間を短縮できる。迷うことはない。少しの時間が命取りなのだ。僕はすぐに大井料金所に入った。
首都高速は二車線とも空いていた。確かにこれで時間を稼げるがクロックも使っているなら意味がない。飛ばすだけ飛ばすしかない。RZは確実に路面をグリップし、僕の思うように動いてくれる。僕は今日ほどこのマシンを乗りこなしたと思った日はない。僕の五感が冴え渡り、いつもは暴れ回るマシンが自在に走る。前を平行に走る二台の車の一メートルもない間すら二百キロ近いスピードですり抜けることができた。今晩の僕はきっと何だってできるんだ。
僕の前方には夜空が広がっていた。幾つかの冬の星座が僕の目の前に現れる。どれだけスピードを上げてもけして星座たちは近づくことがなかった。このまま星座を追いかけて何処までも行きたかったけれど、今夜はそういうわけにはいかなかった。
しばらくして道路の様子がおかしいことに気づいた。車の流れが悪くなり、二車線とも前の詰まった車がノロノロ運転している。どうも様子がおかしい。遥か前方に赤色の灯火。事故だ。車が一台、道の端に止まり、三角形の反射板を置いている。他の車は速度を落し、片側に寄っている。そこから後ろが僕の所まで詰まってる。そこでまごついているクロックを見つけた。クロックは密集する車を避けようとするが、ハーレーの車体がでかく、スピードをあわせられず手こずっている。僕は慎重に車を避け、ハーレーに近づいた。
僕が横に並ぼうとすると、クロックは僕の接近に気づき、「てめえ!」とクロックは叫んだ。クロックは速度をあわせて体当りをかました。
「ウワッ」僕は避ける間もなくRZごと弾かれ、もう少しで壁に激突しそうになった。
周囲の車は僕たち二台の異常に気づき、焦って急ブレーキを踏んだ。途端に玉突事故が起こり、五、六台まとめて前後のバンパーがひん曲った。後続の車は巻き込まれなかったものの、みんなその場に止まってしまった。前方の車は既にスピードを速め、視界から消えようとしていた。クロックはすかさず僕の追撃を振り払う。僕は態勢を立て直し、それを追った。
大師出口をパスしても僕らの速度は落ちなかった。クロックのハーレーは車体の割には高速での伸びがあったし、クロックのコーナーワークはカミソリのように鋭い。ストレートでも距離は詰められないし、コーナーでがいくら抜こうとしてもなかなか進路を譲らなかった。全くクロックは単車の腕まで一級だ。嫌になって来る。思えば何をやってもクロックには叶わなかったな。スポーツも単車もそれ以外でもクロックは僕の前に立ち塞がっている。それが不快なわけではないけれど、時にその壁を破らなきゃいけないこともあるんだ。それが友達でもだ。
クロックと僕は東京エデンのメインゲートを横目に、公園に急ぐ。メインゲートを過ぎるとエデン基地が見えた。あまりのスピードのせいか入口で警備している兵士がこっちを見ている。そういえば元々単車で園内に入ることは禁止なのだ。連中に捕まるとまずいことになるな。でも今はそんなことも気にしてられない。もうすぐリモコンの電波の有効範囲だ。女神像から半径三百メートル以内。あの噴水広場のコーナーを曲がったらもう後がない。
僕は勝負を賭けた。
クロックは滑らかに、勝ち誇ったように噴水広場のコーナーに進入する。僕はその内側のラインで後を追う。アクセルを目一杯絞る。今までにない加速感が僕を恐怖の穴に陥れる。僕は反射的にブレーキをかけて減速しようとする。このままじゃ僕はコーナーを曲がり切れない。スピードを落とすんだ。僕は恐怖のあまり、ブレーキレバーを握ろうとした。
まだだ!まだだめだ!僕は自分に強く言い聞かせる。
クロックは腰をずらし、絶妙のコーナリングをする。しかしその減速を僕は見逃さなかった。僕は恐怖感を隅に追いやり、減速せずにそのまま強引にクロックのインに入った。頭の中にはクロックの進路を阻むことしかなかった。
「よせ!」コーナー出口でクロックは進路を変えようとしたが僕はわざとアウトに膨らむようにコースを全てブロックした。二台の単車はぶつかって見事お互いの進路を塞ぎ合い、コーナーの外側に向かって転倒した。
僕はやったと思ったのも束の間、ぶつかった時に単車から放り出された。身体が宙を舞い、自分でも上下感覚がよくわからなくなった。一瞬の浮遊感の後、背中に鈍い衝撃が走った。僕は道路の脇の芝生に放り出された。僕は芝生の上を転がり身体のあちこちを打ち、擦傷を作り、もう駄目かと思った。でも幸いなことに直接頭は打っていないから大したことはないだろう。頭を打つのはヘルメット越しでも危険なのだ。意識も怖いくらいにしっかりしている。僕は起き上がり、自分の身体の異常を手っとり早くチェックした。頭、腕、胸、腹、背中、足、内臓、その他。どうやら肘膝の擦傷。それに背中に軽い痛み。どうやら僕は反射的に柔道の受身をやっていたようだ。体育の授業もなかなか捨てたもんじゃない。僕は自分のことを済ますと、すぐに周りを見た。
クロックは?クロックは何処だ?
転倒した単車二台は見事に融合したオブジェとなり、道路の端に横たわっていた。ここからでもわかる。RZは廃車だ。フロントフォークがひん曲り、タンクが醜く変形していた。せっかくの愛車はむごたらしい姿になっていた。クロックのハーレーも同様だ。出っぱったハンドルは左右バラバラの方向に向いていた。前後の両タイヤも妙な形に歪んでいる。さっきまではクローム・メタリックの人気車だったのに、今は見るも無惨だ。
クロックは、・・・クロックは仰向けになりながらその転倒した惨めな二台の単車の下敷になっていた。僕がふらふらしながら近づいた時は息も絶え絶えで青い顔をしている。保健室で見たあの時の顔だ。でも、たぶん今度こそクロックは死ぬ。
僕はそのそばで、クロックの死を見届けようとしていた。もう駄目だとわかっているから、無駄なことはしなかった。
クロックは薄れゆく意識の中でそばに立つ、僕の姿を見た。一体どんな風に映っていることだろう。期待を裏切り、最後の最後で逆転した僕をどんな風に思うだろう。
「・・・ク、クソ、お、俺は死ぬのか?俺は死ぬのか?ああ、そうだ。死ぬ・・・んだ。わかって・・・るよ。自分が死ぬことくらいはわかる。これがう、運命なんだ・・・。こうなるようになっていたん・・・だよ・・・。さ、さ、さ、最後の最後で、お前はいつもやってくれるぜ・・・。だ、だけどな俺も負けちゃいねえんだ・・・よ」
僕が気づいた時にはもう既に遅かった。上着から取り出したリモコンを手に、クロックは禁断のスイッチをためらいもせずに押した。クロックの閉じる寸前の視線の向こうには女神像がそびえ立っていた。]]>
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2008-01-01T20:44:22+09:00
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REALIZE 第2部
「まあ、その話しは後だ。ここまで来たらもはや全て話さなきゃお前は納得しないだろ?ここから言う話しはたぶん全くお前には信じてもらえないだろう。何故ならこの世界においては突拍子もなくて馬鹿げた要素の集合体みたいな話しだからな。俺の言う話しが気違いのたわごとだと言えばそうとられても仕方がない」クロックの表情は雪に閉ざされた冬山のごとく厳しく険しく凍てついていた。口調は真剣であり緊張が張りつめてる。
「まず、話してくれ。正直ならそれでいい」と僕は言った。
「わかった。じゃあ始めるぜ。結論から言おう。まず俺たちは二人ともこの世界の人間じゃない。こことは違う別の世界からやって来た。おっと、そんな顔するな。俺たちは高次元の意志の使いでこの世界と平行する幾つかの世界を移動しながらある目的のために行動している。移動と言っても肉体ごと次元転移せずいわゆる生れ変りというかたちをとって出現する。あっちの世界で役目を終え肉体が滅びれば、こっちの世界で赤ん坊からやり直しって感じでな。過去の世界の記憶は生まれてからは一時凍結されている。自分の能力をわずかに意識することはあるが、その時まで完全に思い出すことはない。その時、つまり自分の目的を思い出すことを覚醒と言い、その思い出すきっかけは様々だ。あいつはつきあってた女がそこからジャンプした時に。俺はあいつからパスをもらった時に覚醒した。俺たちは普通の人間とは違う能力を持ち、それを最大限に駆使して目的を達成する。俺は言葉や身振り手振りで他人をコントロールする力を、あいつは時間空間を伸縮させる力を持っていた。この力が作用していることは通常普通の人間には知ることはできない。この世界で言う念力や、テレパスとは全く異質の力だ。言うなれば俺たちの力は他の物質を介さずに三次元空間に直接作用す・・・」
僕は突然のクロックの説明に瞬きを連発した。何を言うべきか言葉を選んだ。
「ちょっ、ちょっと・・・それ、本気?」僕はクロックが冗談を言っているようには思えなかったけど一応聞いてみた。聞くことによって自分の耳も大丈夫か確認してみた。
「ああ」とクロックは頷く。
「意志って何だよ?一体、その・・・高次元の意志って何が目的なんだ?」
「それはお前らの言語、理論、現象で説明したところで到底理解できないだろう。しょせんそれは言い訳みたいなもんだ。概念の違いは理解するだけ無駄だ。一生わからないんだ。陳腐な言い方だが究極の世界を目指していると言えばわかるか?この世界の住人が不可能な永久機関に思いを馳せるのと同じようにその上の世界でもまた何かを目指しているんだ」
「ふーん。で、一体二人は何をしに来たの?この世界に」と僕は半ば茶化すように言った。
「この世界は今非常にまずいことになっている。目的を達成できないまま道を外れ、後戻りのできない状況にある。滅ぶべき存在がいつまでも居座り、必要なものは抹殺されていく。水と空気がよどみ、腐敗が始まる。止まった時間が無限に繰り返すだけだ。まさにお前が感じ不満に思っていたことだ。冗談と思うなよ。正直この世界はヤバイ。今まで創られた世界の中でかなり腐敗が進行してる。このまま行けば間違いなく正常な流れを持つ別の世界に影響を及ぼすだろう。本来滅ぶべきものが何かの拍子にここまで生きながらえたんだ。暴走を始めた世界は癌細胞みたいにそのすぐそばを走る別の世界を巻き込み、全く違うものに変えてしまう。そしてその暴走の渦は雪ダルマ式に巨大なものになる。全てを再び塵に変えちまう。そうなる前に俺たちは現れた」
「別の世界なんて、こことは違う世界なんてのが幾つもあるの?」
「ある。時間のずれた世界もあれば物理現象が異なる世界もある。ここと全く同じ世界もあれば海も空もない世界もある。文明レベルが今より千年遅れている世界もあれば、人間の滅びた世界もある。思考の可能性の限界まで別の世界はすぐ隣を走っている。俺が主に転移をしていた世界はほぼこの世界の時間軸に沿っている。覚醒の度に俺は使命を思い出し、その世界を修正してきた。肉体が滅ぶことを俺たちは恐れない。いずれどこかに生まれるからだ。覚醒した俺たちは自身の能力を駆使してシステムの停止を誘う。停止の種類は様々だ。ある要人を殺すだけの時もあった。文明に崩壊のくさびを打ち込む時もあった。惑星を破壊したことも、銀河単位の宇宙を粒子よりも小さいものにしたこともあった。今の話しはこの世界に近い世界での話しであって、もっと途方もないことや、セコイこともやった。それは説明はしきれないから省くが、何であれそれはここより一つ上の世界では必要だからしたことだ。そしてそれはこれからも行われるだろう。この世界でも似たようなことがあるように」
「それでこの世界が気に喰わないからごっそり消し去るってわけか?跡形もなく。それが使命なのか?」
「そうだ。でも、昔からそんなことを考えてたわけじゃないぜ。あの球技大会の時まで俺はまだ覚醒をしていなかった。ただ、知っての通り行動操作という力は既に発現していた。俺は自分の力を行使しうまく生きてきた。人は俺の言葉で自由に操れるし、何も怖いもんはなかった。俺は人を支配することが当り前だと考えていたんだ。全ては上か下か、支配するかされるかだけだと思っていたんだ。そこにあいつが割り込んで来た。あいつも力を操って俺の覚醒を促すようにしたんだ。ゲームが終わった後、俺は呆然としたよ。自分が何者で何をするために生まれてきたのか一瞬でわかった。過去の記憶が全て蘇った。ただ今回の俺はなかなか精神と肉体との適合が上手くいかず時間がかかった。何度も転移を繰り返しその度に覚醒してきたが、今回だけは事実を認識するのに時間がかかった。そしてなかなか気づかない俺にあいつは再び覚醒を促した。そう、あの体育の時間だ。お前に運ばれたあの保健室で俺は死に、完璧に生まれ変わった。本当の俺に戻ったんだ。そしてお前という存在をようやく認識できたんだ」
「僕が?」と僕は言った。「僕がどうしてそこに出るんだ?」
「言ったろ?俺たちの力は使ったとしても同類でない限り他人に気づかれることはないんだ。少なくともあいつの力はお前には作用しなかった。だからお前にはあいつと俺のやりとりがわかったんだ。引き伸ばされた時間の中でも」
「つまり、同類ってことなの?僕は」
「まあ、先を急ぐな。覚醒した俺は早速あいつとコンタクトを取った。お前は俺があいつと敵対していたと勘違いしていただろう。俺たちはお前をあの手この手で騙し続けた。その一歩はお前を俺から離し、あいつに近づけることだった。俺たちは通常世界に一人しか出現しないと思っていた。俺の記憶にも仲間と会った記憶はない。あいつもそうだと言った。だが同じ役目を持った者が同じ世界の高校で教室も一緒なんてこんな偶然あるだろうか?やっと目覚めた俺をあいつは喜びすぐに計画に移ろうと話し始めた。あいつは既に計画を立案し実行に移そうとしていた。暴走した世界を確実に停止させる計画だ。時間はもうない。一刻も早く動き出さなけりゃならない。俺はあいつと行動を共にする前に一つ気にかかることを話した。お前のことだ。俺はお前についてのことを全て話した。以前から気になる存在だったこと。保健室でのこと。お前はあいつのシュートを見たと言っていたな?普通の人間では見えないものが見えたと言っていたな?時間が強制的にコントロールされた世界のものが見えたと言っていたな?するとあいつはお前に興味を持って是非会って話してみたいと言った。三人目という期待もあった。お前同様あいつも俺が言うまでお前の存在に気づいていなかったらしい。お前らはお互いに気づかなかったんだ。あいつはお前を遠目から観察した。あいつはお前という存在に頭を悩ませた。自分とこの世界の関係を理解していながら、お前みたいな奴を理解できなかった。それは俺たち二人の存在さえ危うくする問題だった。お前という存在が何なのかという結論をアイツがようやく出した時この世界を消去する計画は大幅に変更することとなった。お前はそれほどの奴だった」
「僕は一体何なんだ?」
「お前は間違いなくこの世界の住人だ。俺たちとは違う。だがお前はリアライザーだ。自分の望みをイメージとして想起し現実化させる力を持っている。それもとびっきり残酷なイメージだけを現実化させることができる。お前だってその片鱗に気づいているはずだ。お前の中に眠る炎の蛇はお前が幻視する業火だ。火気管理の甘い石油コンビナートだ。運用システムにバグがある原子力発電所だ。タバコ一つの消し忘れで、冷却系のボタン一つで、ちょっとした感情の隆起で大爆発だ。全てを焼き尽くし灰に変える巨大で強力なエネルギーだ。お前の望みに関わらず体内から膨れ上がったその蛇はこの世界の全ての空に解き放たれ暴走したこの世界の息の根を完全に止めるだろう。俺たちが必要のないくらいのパワーで・・・」
僕は立ったままなのに、立ち眩みを起こした。頭がグラグラする。
「信じられないな・・・。じゃあ・・・じゃあ何かよ。僕は核兵器よりもっと始末の悪い存在なのかよ・・・」信じたくない言葉だが僕にしつこくまとわりつく。クロックの言葉がタチの悪い冗談だと頭から疑っているのに、僕の奥底は何故か落ち着かない。
「じゃあ、何で俺たちがお前に刻まれた蛇のことを知っているんだ?お前はそのことを誰かに喋ったか?」
「・・・」
何も言えなかった。クロックは言葉だけではあるが確実に僕の事実を捉えている。
「お前はこれまでの話しを聞いてどう思う?この世界の人間じゃない存在二人とこの世界の住人にも関わらず不相応な残虐なイメージの持ち主。何故俺とあいつはこの世界に同時に現れたんだ?何故この世界のこの時間にこの三人は出会ったんだ?偶然なのか?俺たちが滅ぼす世界に何故お前がいるんだ?俺たちの力を必要としない存在がいるんだ?お前は何かの役目を持っているのか?とにかくあいつは元々の計画を白紙にしようとした。最初の予定じゃかなり時間がかかるんだよ。死んだお前のお友達三人を利用すれば確実に世界をパニックに陥れられるからな。一人は絶対的な権力を持ち、なおも上の階級で座することができたし、他の二人はその存在そのものが、強力だったからな。なんらかの細工でメディアにのせればその影響力は計り知れない連中ばかりだ。今度の中東の紛争も長引かせてそのきっかけにしてやろうと思っていた。その気になれば『シンクレア』だって乗っ取ることができたんだぜ。でもそれだけじゃダメだ。時間もかかるし不安材料も多い。俺たちの覚醒はイコール任務開始の合図だから時間をかけるのはまずいんだ。失敗は許されないんだ。こうしてる間にも暴走に歯止めが効かなくなってるんだ。そこにお前が現れた。強力で絶対的なパワーの持ち主。お前がいれば俺たちはいらないんだ。いざとなればお前の蛇はきっと一瞬で何もかも灰にするだろう。じゃあ、俺たちの存在理由は何だ?何故ここにいるんだ?だがな、あいつはお前の炎の弱点とお前の中に眠るもう一つの力を見つけたんだ。あいつはそれに気づくことによって、自分たちの存在理由に理解し、この世界を消し去ることに疑問を覚えた。お前の弱点てのはもうわかるだろ?」
「炎のイメージが弱い?」僕は死んだ彼の言葉を思いだしながら言った。
「その通り。さすがにわかったか」
「でも、何なのさ。もう一つって」
「トリガー、引鉄だよ。お前は炎を体内に宿す力とそれを抑制する力を持っているんだ。だからあいつは自らの審判、決定権を持つお前に全てを託そうと賭けにでたんだ。あいつも幾多の世界を葬ってきた男だ。時には人間の感情に心を裂かれ流されたこともあったと言っていた。自分の使命に疑問を持っちまった。たぶんあいつはこのろくでもない世界に同情したんだ。望みなんてものはこの世界になかった。可能性なんて言葉じゃもう後戻りできないところまでこの世界はきてるんだ。あいつはあいつなりに悩んだんだ。あいつは一人で責任を抱え込んでいたんだ。ただお前がいた。お前に全てを気づいてもらい、全ての決定をお前に託そうとした。この世界の住人がゼロと非ゼロを決めるんだ。天理の是非を裁くんだ。お前にはその資格があるし、義務があるんだ。それがあいつが死んだホントの理由だ。お前に気づいてもらうために死んだんだ。全てお前に自分の正体を自覚してもらえば良かったんだが、そうもいかなかったな」
「・・・とっても壮大で嘘みたいな話しだ」ポツリと僕は漏らした。
「だから最初に言ったろ?馬鹿げた話しだって。信じるのも信じないのもお前の自由さ」
「その話しが本当だとして、もし僕が感情に任せてその蛇を身体から出したら、僕は死んじゃうんだろうな」
「大丈夫。その時はもうこの世界は終わりだ」握った手を宙に広げ、爆発を表現した。
「その調子じゃいつか病院か刑務所行きだぜ」
「強がるなよ。そうはならないな。俺たちの計画にそんなフェーズはないんだ」
「僕が全てを知った今、その君らの計画はどんな結末を迎えるんだ?」
「やむを得ないが今から女神像を爆破する。本当はお前が自分自身の手でスイッチを押してくれると良かったんだが、仕方がない。『ψガン』が発動すればこの辺一帯は吹き飛ぶだろう。そうすることによってお前にさらに強烈な炎が刻まれるだろう。そうしてお前はようやく完全になれるんだ。より大きな炎を生み出すために。俺たちはそのために頑張ってきたんだ」
「そんなものが、今爆発しても死なないのかい?僕は」
「役目を果たすまで死ねないんだよ。お前は。ボタンを押せないならリモコンをよこせ。今から俺が押してお前のケジメをつけてやるよ。お前はよくやったさ。本当はリモコンのボタンを押すことがお前の使命じゃないんだ。後は俺に任せろ。お前の望みは叶えてやる。この下らない世界を滅ぼすきっかけを作ってやる。巨大な炎を刻んだ後にお前が憎んだこの世界をお前の意志で消し去ってやれ。さあ」とクロックは手を差し出し僕にリモコンを求めた。
僕はその手を払いのけて、やめろと言った。クロックは一瞬たじろいだ。
「はは、やっぱり。二人は組んでたのか。思った通りだ。気づいた時は僕だってまさかとは思ったさ。それだけなら別によかったのに。何もこんなまわりくどいことして何の得になるのかと思ってた。おまけにその理由が思い切り下らない与太話だ。どうかしてる。気が狂ってる。ふざけるなよ。渡すかよ。人がいっぱい死んで、勝手に話しを決めて。ふざけるなよ」僕は後半威嚇するような怒鳴り声を上げた。
しかしクロックには通用しなかった。クロックはすかさず僕の腹に一発鋭く重いパンチを入れた。
「ウグッ」
僕は余りの衝撃にその場に倒れ込みもんどりうった。胃袋が万力で潰されたみたいだ。黒いものが意識に被さる。クロックは僕の上着からリモコンを取り出すと「お前はもう逃げられないんだ」と言った。クロックは僕を見降ろす。その言葉が僕の耳に響く。僕は逃げたつもりはないのに・・・。
「いいことを教えてやるよ。この計画を遂行するために俺はどんなこともやった。あいつの遺体を警察から奪って始末したのも俺だ。あの狂った教師を操っていたのも俺だ。お前の仲間を殺したのも俺だ。一人目は浮遊する形のない殺人鬼に意志を与えた。二人目はあの『ニュークリア』のボンボンに薬をやって殺させた。そうだ。シャドウは俺だ。俺はあらゆるものの影だ。夕暮れに背を向けて火を放つのも俺だ。サイボーグ野郎を暴走させたのも俺だ。病院でサイボーグ野郎を殺したのも俺だ。それとお前の彼女に嫌な夢を見せていたのも俺だ。あの娘とはバイトが一緒なんだよ。俺から近づいたんだ。俺は少しづつ彼女に言葉でマイナスのイメージを送り蓄積させた。お前から遠ざけるように仕向けたんだ。残念だったな。もうあの娘はお前の元には戻ってこないぜ。おっと恨むなよ。あの娘が見た夢は本当のことだ。お前のそばにいると彼女自身が不幸になるからな。彼女は自分の意志で自分を守ったんだ。お前から離れることでな。もう少し早く気づくべきだったな」クロックはそう言って屋上から立ち去った。]]>
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2008-01-01T20:39:41+09:00
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REALIZE 第2部
その一輪の花は、道の端でわずかな風に揺れながら静かにそこに存在していた。
消え入りそうな現実の中で唯一存在していた。]]>
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2008-01-01T20:37:41+09:00
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REALIZE 第2部
「一体何の用だよ。こんな時間に。すぐ来なきゃ僕は死ぬって、何考えてんだ?もうお前は俺と関係ないんなら死ぬ時は一人で行けよ。もう、俺に関わるなよ」
「来てくれてありがとう。絶対来てくれるって思ってたよ」と僕は言った。お礼のつもりで少し頭を下げた。
「バカ、よせよ」とそいつは言った。「ふざけてるだけなら帰るぜ。お前やっぱ頭おかしいよ」そいつは振り返り、呆れたように背を向けた。
「そんな、もう帰るのかよ?それで確かめられたか?」
「あ?」そいつはズカズカと歩き、僕を無視しようとした。
「本当はわかってるんだろ?本当は僕が真実に気づいたかどうかを確かめに来たんだろ?」と僕は言った。「僕が気づいたかどうかを」
「真実。真実って?」とそいつは振り向いてどういうことだとジェスチャーした。
「君と彼がグルだったってこと。このまま上手くいけば僕は一体どうなっちゃうんだろうな?」
「お前何言ってんだ?何で俺があんな奴と。お前もいい加減・・・」
「そこから下を見てごらんよ。そこを見れば僕が何を言いたいのわかるはずだよ」
「そこってお前そこはジャンプ台じゃねえか」
「そう彼女が飛び降りた場所だよ。中庭は見える?」
「見えるわけねえだろこっから・・・」とそいつは言って慌てて口を閉ざした。
「僕もさっきまでその聖地に足を踏み入れなかったところだ。さっき僕はそこで気づいたんだ。こっから中庭は絶対見えないってことに。前に学食で言ってたよね。屋上から僕と彼を見たって。そのことを思い出して僕は気づいたんだ。君と彼の本当の関係にね」
僕もそこをのぞき込んだ。間違いなく中庭は脇道から生えた樹木の枝ですっぽり覆われ、上からは見えない。
そいつは一歩前に進み、その顔を隣のビルから漏れた光が照らす。光の輪郭が現れ、そいつの顔がうっすらと浮かび上がる。そのシルエットの男、すなわちクロックはニヤニヤと嬉しそうに笑みを浮かべ僕を見ていた。「それで?」
「続けるよ。正直な話し、君たちがいつ知り合っていつ連絡をとっていたのかなんてのはさっぱりわからない。ただ反目し合っていた二人が実はチームだったと考えるとこれほどすっきりすることはない。怖いくらいにね」と僕は言った。
「ふざけんなよ。テメエ。言えよ。何で俺とあいつが組まなきゃならねんだ?一体何のために?」
「何故かはわからない。でも僕と彼を引き合わせようとしたのは間違いなく君の仕業だろ?そのために女神像の話しや、彼に反発するような態度をとって僕がそっちに興味を抱くようにしたんだろ?さらに拍車をかけるように僕を何度も何度も挑発したりしたんだろ?僕が脅迫に対して反発するのを読んでいたんだろう?違うかい?」
「クククククク」と笑うだけだった。
「それに彼が死んでから僕たちの周りにチョコチョコ息を潜めて現れてた奴もひょっとしたらそうだろう?何から何まで混乱するように仕向けてたんだろ?」
僕の言葉に急にクロックは笑うのをやめた。
辺りが一瞬で沈黙凍りついた。
・・・。
僕はスキニーの言っていたことを思い出した。かつて死んだ彼は時間の止まった世界で演技指導をしていたことを。マイケルと倒錯した世界を作り上げていたことを。もしかしたらそれは僕の身にも起こることなのかと思った。それほど世界は沈黙し、静かだった。でも埠頭の明りは消えることなく点滅を続け、夜空をどこかの飛行機が飛ぶ。通りにはトラックが走り、運河の水面が揺れる。時間は間違いなく流れている。
クロックは沈黙を破り、再び低く笑い出した。
「クククククク。ホントにお前はキレる奴だよ。ただ手引きなしで全てお前に自覚してもらえば良かったんだけどそうもいかなかったようだな。お前の言う通り、俺たちは組んでたよ。ただしそんなに前からじゃない。きっかけはあの球技大会の決勝だよ。奴からのあのパスからだ。あの時から俺たちの関係は始まったんだよ。お前を巻き込もうとする関係がな」
「君たちは一体何者なんだ?僕をどうしようとしていたんだ?」
「俺たちは暴走したシステムを消去しにやって来た。そしてお前はリアライザーだ」とクロックは言った。]]>
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2008-01-01T20:35:36+09:00
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khmj
REALIZE 第2部
何も飲まず、食べない日々が続くとさすがにもう死んでもいいと思った。僕がしがみついたたった一本の糸は誰かのハサミであっさり切られた。僕は底のない底に向かってただ落ちて行くだけだった。落下する感覚だけが残り、僕の力だけではどうにもならない。助けてくれる者はみんな僕の目の前から消えた。
諦めの日々。
死んでしまった者は諦めず、生きていく者は諦めることが日々続く。
去り行く日常で僕は自分が何をしているのかもわからなかった。何をしても記憶にすら残らない。学校にはもうどれだけ行っていないのだろう?自分でも数えられないほど行っていないと思う。そうかといってどこかに行く当てもない。行ったとしても憶えてない。
家にいる時は電話が鳴る時があった。でも取らなかった。僕が話したい人はもうどこにもいない。だから取らない。
部屋の中は散らかっていた。夜通しプラモデルを造り、夜明けの完成と同時に壁に叩きつけて壊した。今日で十個目だ。今度は今までのコレクションに手をかけそうだ。
荒川土手で丸一日過ごしたことがある。土手で座りながら星を見ながら夜明けを待った。昼頃には昔と変わらずグランドで野球の練習をどこかのチームが行い、太陽が沈んだ。僕の気持ちを昔とまるで変わらない。諦めることだけしか理解できなかった。
考えてもみれば僕は彼女のことなんか何もわかってやれなかった。どれだけわかったような顔をしていてもそれは愚かな知ったかぶりだ。彼女の気持ちの奥底で動めいてるものを理解してやれなかった。何故彼女が気持ちを急変させたのかなんて理由を聞くまでもない。僕が悪いんだ。大事なものならいつでもそばにいてやるべきだった。サヨナラと言った彼女の言葉は、僕に突き刺さった破片だ。僕は彼女のことがとても好きだった。だから、僕は全てを失ったも同然だ。
ようやく単車が修理から戻り、僕はその日の夜も無目的に単車で走り回っていた。やるべきことすべきことは何もなく、あてもなくさまようだけだ。僕には友達も大事な人もいない。語るべきことは何もなく、耳を傾ける話しもない。何も感じられず、感じたとしてもそれはわかちあえない。
一度奥多摩の方まで走ってから横浜の方に足をのばした。高速も使わずダラダラとアクセルを握っていた。世田谷の砧を通り、葛西まで突っ走った。そこから湾岸線に乗り、気づくと僕は学校の屋上に足を運んでいた。大井町の看板が見えた時につい湾岸線を降りてしまった。これほど数多く夜の学校に来るのはやっぱり僕くらいのものだろう。時刻は既に十一時を回っていた。僕は当然のように学校に忍び込んだ。暗闇の学校にはもう慣れっこだ。もうちっとも怖くない。どこかに行く目的もなかった。教室にもグランドにも体育館にも用はなかった。でも吸い寄せられるように北館の外に出た鉄の階段を上へ上へと昇って行った。
屋上は相変わらず僕を優しく迎えてくれた。冷たい空気で満たされていても、光の届かない闇があっても居場所のない僕にはどんなことも我慢できた。僕は埠頭のコンテナの明りが見える場所にしゃがみ込んだ。
・・・。
コンテナの赤い点滅は僕をゆっくり後悔へと導く。後戻りさせて行く。
僕は何なんだろう?
あれほどドタバタ駆けずり回った挙げ句、大事なものを全部なくしてしまった。僕はあまりにも愚かだ。もっと賢い選択だってあったはずだ。こんな風にならないための策があったはずだ。でも今振り返れば彼女を失わないようにできたはずだ。ギャッツを失わないようにできたはずだ。デイ・メアをスキニーをそして彼を。僕は努力したはずだ。僕は精一杯やったはずだ。でも結果はどうだ?みんな僕の前から消えてしまった。僕が必要なかったかのようにいなくなってしまった。僕を呼ぶ声は途絶えてしまった。
存在理由か。
目の前にはジャンプ台が映った。
僕は立ち上がり、ジャンプ台に足を向けた。誘われるように僕はその柵の前に立った。
少し前にここから飛び降り自殺があった場所。ある女の子が失恋の痛手から逃れるためにとった手段。それはここから足を踏み出し、新しい世界に飛び込むこと。きっと彼女は自分の存在理由を疑ったんだ。絶対答えの出ない疑問を突き詰めたんだ。僕はそんな彼女を神聖視し、この場所には近づかなかった。でも今はどうでもいい。僕はジャンプ台に足を踏み入れ柵越しに下にある中庭を見下ろした。中庭には例の事件以来木が植えられ、下が見えない。
僕は足元を見ているうちになんだかこのまま下に向かって飛び降りてもいいような気がしてきた。どうせ僕は放っといても不慮の死を遂げるのだ。だったら自分の手で幕を閉じた方がましだ。誰にも迷惑をかけず誰の手も借りず、これで終わりにした方が何の苦労もなくなる。遺書なんか書かないよ。そんなもの書くなんてまだまだこの世に未練が一杯ある証拠だ。すっきりする。こんなリモコンなんか知ったことか。一緒に落ちればコナゴナにでもなるだろう。
思えばあまり好きではないこの学校でも色んなことがあった。自殺騒ぎや球技大会や学園祭もあったし、嫌な奴もいたしカッコばかりの不良もいた。わずかな友達もできた。好きな娘もいたし、何より彼に出会えた。憎く思うこともある。僕を暗闇の底に引きずり込み、置き去りにした奴だ。彼は確かに恐ろしい力を秘めた奴だった。けれども僕にとっては僕を認めてくれた一人だった。彼と中庭でサッカーをして遊んだことは僕は今でも忘れない・・・、中庭・・・、サッカー・・・彼・・・中庭?
その時僕の頭の中で何かと何かの線がピタリとつながった。瞬間、僕は目を見開き下を見た。僕の心臓の音はドクドクと激しく脈打ち破裂しそうになった。何だ?何だ?この事実は。直伝後輩は言った。「事実に光を当てた時に映る影」僕の頭の中ではすさまじいスピードでルービック・キューブより複雑な三次元パズルが組上がっていく。「閃きのエネルギーは核分裂のそれと同じくらいに凄いもんなんだ」隣の席の女の子は言った。「あの時新宿で少なくとも良からぬことを考えている人がいたわ」何故彼はガソリンを被り死んだのか?それは僕にはわからない。ただ彼は狂っていない。狂ってなんかいない。全てこうなるように計算していたのだ。彼は道行く人にカタルシスを警告した。崩壊をアピールした。でもそれは本当の狙いじゃない。だってもう僕以外に誰もそんなこと憶えちゃいない。そう僕以外に。世間に対してあの自殺自体は大した意味はなかったのだ。彼が死ぬことで何かが始まっていたのだ。あれこそが全てのきっかけだったのだ。デイ・メア、スキニー、ギャッツ。僕はリモコンを握りしめる。もしかしたら、もしかしたら僕は重大な間違いをしていたのかも知れない。いや、完全にやられたのだ。僕はだまされ、挙げ句もう一歩で死ぬところだった。あの三人は何のために死んだのか?僕はどうして生きているのか?それを突き止めるまで僕は死ぬわけにはいかない。狂ってもいけない。その鍵を握っているのはこのリモコンと僕自身とあと最初からずっと陰で息を潜めていたもう一人の人物。僕はこの人物から全ての真相を確かめずに死ぬわけにはいかなかった。諦めちゃダメだ。事実に封印された真実を解き放つのだ。
僕は電話でそいつを呼び出した。]]>
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2008-01-01T20:33:35+09:00
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khmj
REALIZE 第2部
ウォルトは「息子は死ぬと思っていた」と電話越しに言った。「あれはやはり死ぬ運命だったんだ。この私より先にね。この前病院に行った時にそれはわかっていた。あいつはそんな目をしていた。きっと誰にも止められなかったんだろう。君にも部下にもあいつ自身にも。だから私は誰も責めないよ。恨みごとはもう好きじゃないんだ。例え愛する者を失ってもね。
・・・。それでも誰かが悪いと言えば。きっと私なのだろう。息子を変えてしまったものは私であり、私の分身の『シンクレア』だ。息子は幼い日の恐怖を身に宿していたのだ。小さなあいつはうっかり『シンクレア』とコンタクトする専用室に座ってしまったのだ。あいつがあそこをこの街の中心と言ったのにもうなずける。叶わないものの一端を感じてしまったのだ。それが、その恐怖があいつの中心を蝕んでいったんだ・・・」
僕はストリートが入院している築地のそばの病院に足を運んだ。殺人博士に取り次いでもらい病院の場所を教えてもらった。あの時の騒ぎで今だにストリートはベッドで寝たきりだそうだ。意識が戻っても顎の骨折で喋ることもままならないとのこと。酷い話しだ。
僕が二階の四人部屋の病室に入るとそこにはスラム取締り以来のピックアップがそこにいた。ピックアップはまだ黒いスーツを着て、包帯だらけのストリートが眠るベッドの横にうなだれるように座っていた。傍らには古びたクラシック・ギターがあった。きっとピックアップが持って来たんだろう。
ピックアップは目を閉じたストリートの横でじっと座っていた。やがて僕の存在に気づくと、急に立ち上がった。
「てめえ。よく顔出せたな」と怒りの表情で呟いた。
「久しぶり」と僕は平静を装って言った。「無事に逃げられたんだ?」
いきなりピックアップは僕に掴みかかった。そしてくすんだ白い壁に僕を押し付け、どういうつもりだ?と叫んだ。病室では他の患者が驚いた表情で僕たちを見た。あまりのことに声も出ないようだ。
「いい度胸だ。殺してやる」ピックアップの目には殺意が宿っている。本気だ。
「待ってくれよ。何だよ。これ。誤解だよ」と僕は叫んだ。
「ふざけんなよ。誰のせいであんなことになったと思ってるんだ?」
「誤解だ。サラマンダーのことだろ?誤解だよ」
「ああ?」とピックアップは顔を歪ませて吠えた。
ピックアップは右拳で僕を殴ろうとした。僕は目をつぶろうとはしなかった。誤解を解きたかったからだ。ピックアップは大きく拳を振り上げた。痛みの想像が現実を先回りしそうだった。
でもピックアップは僕を殴らなかった。後ろで寝ていたストリートがドタバタと手足を動かし、「ああううああ」と叫んだからだ。ピックアップは後ろに振り返り、ストリートに向き直った。
僕は殴られると思っただけにほっとした。
ストリートは必死に首を振り、ピックアップに何かを訴えていた。ピックアップは最初はうろたえていたようだが、ストリートの言いたいことを理解したのかわかったわかったと握った拳を解いた。僕は後ろでそれを見ていたがふいに笑ってしまった。この二人は本当に兄弟分なんだなと思った。
「おい、あんたら暴れるなら外でやってくれ。ここにはあんたらの喧嘩を止められるほど元気な奴らはいないんだ」とベッドで横になっている患者の一人に言われた。
僕はすいませんと謝った。
ベッドで暴れるストリートがおとなしくなるとピックアップは僕に振り向き、話しがある。待合に行くと言った。僕はうなずいた。ストリートはピックアップと僕に仲良くしろと目で訴えた。
僕は必死であの時のことをピックアップ説明した。待合室は閑散としていた。つけっぱなしのTVを見る人は二人しかおらず、その二人も患者のようには見えなかった。
「で、その黒づくめの奴にサラはやられたんだ。次は僕かと思ったけどそいつは何処かに行っちゃたんだ。僕はその場から離れて単車で帰った」と僕は言った。あの黒い塊、『キラー』のことは一応現実にいる正体不明の誰かということにしておいた。じゃないとピックアップを混乱させてしまうし、僕そのものを信用してくれなくなる。消えた。とは言えない。
「で、それを信じろってのか俺に?」とピックアップは全く信じた風じゃなかった。
「でも、これが本当の話しだから」と僕は言った。
「よく言うぜ。ポリとグルだったかも知れねえテメエを信じろっていうのか?サラの死に場に居合わせたテメエを信じろっていうのか?けっ、あん時ゃこっちも命からがらだったんだぜ。仲間はみんな捕まった。はっきり言って俺はあの時テメエをうさん臭ぇ奴だと思ったよ。テメエの妙な依頼のすぐ後だからな。タイミングが良すぎる」
「言っとくけど僕は警察となんか組んでない。僕はただの高校生だぜ。それくらいわかるだろ?」
「へ、わかるもんか。サラも気に入るような奴だ。何かバックがいるんだろ?サラはきっとその辺を匂いで感じたんだ。テメエ自身を気に入ったわけじゃねえ」
「僕は友達を探していただけだ。それだけだよ・・・」
「ハハハハ、そうだったな。ダチ探してたんだよな」とピックアップは茶化すように笑った。「で、どうなったんだよ。お友達を探す冒険は?」
「・・・つい、最近、死んだよ・・・。僕のすぐ目の前でね」
「・・・」
ピックアップは僕の顔を見て少し目をパチクリさせた。僕の顔から何かを読み取ったんだろう。そういえばピックアップはギャッツの顔を知っているはずだ。たぶん上得意のお客さんだったんだろう。
「本当か?」
「ああ、いちいち嘘をつかないよ。つくならまとめてつく。小出ししないんだ」
「・・・そうか。死んだか・・・。でも何でだ?理由は?」
「殺意の壊れた殺し屋に殺されたんだ。あいつは何かと狙われていたからね。僕は助けたかったんだけど、それも叶わなかった」
「その殺し屋は?」
「死んだよ。誰かに撃ち殺された」僕はマイケルのことも説明を省いた。絶対信じてもらえない。僕の最近の近況は信じてもらえない話しばかりだ。
「お前はその両方の現場にいたのか?」
「ああ。友達が死んで、次に殺し屋が死んだ」
「平気じゃないよな?」
「あんなもの見せられて平気なもんか。でもこうして立って歩いてる」
僕がそう言うとピックアップは急に笑ってくれた。今まで見せた厳しい表情は何処かに行ってしまった。
「サラが死んじまって、俺は今までのことが吹っ飛んだ。それほどまでにサラは絶対的なものだったからだな。行くとこもねえ俺はあてもなくさまよったよ。後で考えたら上で寝てる兄弟と同じだった。俺自身がサラに飲み込まれてたのはわかっていた。サラは俺の中の弱い部分をなめるからな。逃げられないんだ。逃げられなかったんだ」
僕はストリートに挨拶していいかと聞いた。「どうしても話したいんだ」
「お前がしたきゃ好きにすればいいさ。俺たちゃ兄弟だからそいつのダチも信用するんだ」
僕はありがとうと言った。
「これからどうするの?」
「当分はこいつの入院費を稼ぐ。なに、今までの稼ぎと警備員の仕事でもやれば何とかなる。それからは・・・、あいつの身体が良くなったらまた考えるさ。だがもう悪い仕事は勘弁だな。まだ死にたくねえ」
クリスマスイブの夜。
僕は幼なじみの彼女との待ち合わせの七時までの間、久しぶりに自分の意志で渋谷に降りた。彼女は銀座のアルバイトに寄ってから行くと言っていた。
相変わらずの駅前スクランブル交差点には人も車も溢れている。ほんの少し前、ここで事件があった。同じ夕暮れで同じ場所でそれは起きた。でも誰もそのことをすっかり忘れている。もしくは全く知らない。
僕は事件があった場所に立ち、少しだけ足を止める。本当にそんな事件があったのか僕にもよくはわからない。
道玄坂を上り、懐かしのドラッグスラムが目の前に現れる。建物なんて取り壊されればあっという間だ。その面影はもう新しい鉄骨にすげ変わっている。ここら一帯は今度は健全で巨大なゲームセンターが建つらしい。
僕は渋谷を後にした。
この前電話での彼女はいつものように元気が良くてこの日を楽しみにしていたようだ。プレゼントのことはわざともったえぶったことを言っていた。
「フフ、あえて先に言うと気になるでしょ?妄想で苦しみなさい」と意地悪を言った。ちなみに僕は革ヒモのネックレスだ。ただのヒモじゃない。幾つもの小さなイヤリングやガラス細工や宝石を通したネックレスを自作したのだ。しかもサファイヤとダイヤのイヤリングは本物だ。重さやバランスを考えるのが大変だった。
新宿に降りると僕はすぐ紀ノ国屋の入口で何もせずに立って彼女を待っていた。彼女に会うのはなんだか久しぶりのような気がする。電話で話したのがついこの前のこととは思えない。
新宿のクリスマスイルミネーションはなかなかのものだった。赤や緑や金がバランスよく配色されてチカチカと僕の顔や街並を照らしている。街角のカップルはみんな幸せそうな顔をしていた。羨ましいとは思えなかったけれど、これまでのことを考えれば彼女とこんな風に仲良く手をつなぎ合って道を歩くのだって悪くないはずだ。僕はもう少し人並の感覚を持った方がいい。今までそれで損をしてきたと言えるんだ。来年は普通の感覚でアプローチしたい。どうでもいいけど目の前の靴屋のショーウィンドウでイチャイチャしている二人は来年早々別れるだろう。間に合わせの急造カップルなのが見え見えだ。
「お待たせ」
振り向くと彼女はそこに立っていた。立っていたその姿に僕は息を飲んだ。いつか見た夢と同じ格好だったからだ。オレンジ色のダッフルコート。水色のセーター。色あせたジーンズ。着飾らない彼女はそれだけの格好でも十分魅力的だった。彼女らしくて彼女に似合って。彼女は鮮やかな色の口紅をしていた。白い肌によくその色が映えた。彼女の姿はまるで夢という絵本の一ページを切り取ったようだ。ただ一点を除いては。
「髪、切ったんだ」とボソリと呟くように僕は言った。
「うん」と彼女は元気なく言った。彼女の肩まで伸びた濡れたソバージュの髪は見る影もなくなっていた。まるで少年のようなやんちゃでスポーティなさらりとしたショートカット。小さな頭のせいでホントに少年のようだ。彼女は鮮やかな口紅の色に反してやけに顔色が良くなかった。「ついさっき切ったの。これ切り立てなの」
「ついさっき・・・」よく見ると彼女の髪はうっすらと湿っていた。本当に切り立てで洗い立てのようだ。さらりとした艶がある。
「そ、さっき」
「じゃ、じゃあ、行こうか」
僕は言葉が見つからず沈黙を埋めるためにそう言ってみた。他に何も言えず苦し紛れに言った。何故なら僕は生まれて初めて彼女のような人間を見たのだ。少年の容姿。少女の仕草。ユニ・セクシャルのアピール。この娘は完全なんだ。神聖で中性的で他の注目を奪い取る。僕はそんな彼女に好意以上のものを持たずにいられなかった。何かもかも犠牲にしても構わないと思った。歩きながら肩が小さく触れると電気が走り、横顔を見れば鼓動が高く低くリズムを打った。
「似合うかしら?」と彼女はうつむいて言った。
「う、うん。凄く素敵だ。ま、まるでその髪型は君のために作り出されたみたいだ。あるいは君はその髪にするために生まれてきたんだ。たぶん。いや絶対」僕は何を言ってるんだ。僕は全く落ち着きがない。
「凄い誉め言葉ね。でも本当に言ってるのね。どうもありがとう」僕がそう言うと彼女はようやく笑ってくれた。
「だ、だって本当のことだもの」
上手く話しを進められないまま僕は西口の『スカイワード・ラダー』を目指した。行く途中でオフィス街に設置されたスケートリンクでは何人かの人たちが銀盤の上を滑っていた。一人の熱心な少女は何度も空中でのターンを試みていた。彼女は肩くらいの髪を後ろでギュッと束ね、真剣な目でリンクの真ん中をにらんでいた。どうやら真ん中でターンをきめる自分をイメージしているようだ。彼女は衣装こそ着ていなかったが、他の客とは違い、厚手の上着を着ていなかった。薄い白いブラウスだけで何かの演技を練習していた。彼女は赤いニットスカートを履いていたがエアロビで着そうな黒いストッキングをしていたから転んでも気にしていなかった。上半身は見ているだけで寒くなりそうな格好だったが彼女自身はうっすらと汗をかいていた。彼女はほとんど人のいないリンクの真ん中でクルクルとジャンプしながらターンするが、上手く着地してもどうも気に入らないらしく何度も何度も繰り返していた。思えばおかしな話しだ。今日はクリスマスイブなのに彼女はそれすら気にせず熱心に滑る。リンクの表面は彼女の周りだけガリガリに削れていた。リンクの彼女には一体何があったんだろう?どう見ても一人でなんか放っとかれそうにない容姿をしている。今日の約束はないのだろうか?
リンクを通り過ぎ、僕は彼女を『スカイワード・ラダー』の屋上に案内した。
世界一の高さを誇る『スカイワード・ラダー』の屋上からイブの夜の都内を見下ろすカップルなんかおそらく僕たちだけだ。さっきまで僕たちを照らしていたイルミネーションは、今は僕たちの下で散りばめられた小さくてたくさんの宝石になった。
彼女は僕の隣でしばらく驚きと感動に包まれて何も言えなかった。屋上は寒かったけれど風のないせいで幾分増しだった。この驚きは彼女の寒さを少し和らげてくれただろう。
「どう?眺めは」と僕は聞いた。彼女の後ろには池袋のサンシャインが見える。サンシャインも時節に合わせてウィンドウをクリスマスツリーの模様にしている。
「あなたってどうしてこんなに夜景の凄いところ知ってるの?」
「え、まあ自分で探す時もあるし、友達が教えてくれる時もあったしね。ここは友達が紹介してくれたんだけど・・・」
「その友達って?」
「・・・もう死んじゃったよ。ここの屋上の鍵は預かったままになっちゃったんだ」
「そう・・・死んじゃったの・・・」
「そう」と僕はうなずいた。
「じゃ、思い出の場所なのね・・・」
「まあね。色々思い出が重なるところだよ。誤解しないで。女性を連れて来たのは始めてだよ。この場所で色々ありすぎて、何がなんだかわからなくなったよ。この先どうすればいいのかもわからなくなった」
「わからないの?」
「うん。でもそのことだけだよ。少なくとも僕は君とのことだけはわからないままにはしたくない。髪、切ったのは何か理由があるの?」と僕は聞いた。
「おかしい?」
「だってついさっき切ったなんて突然すぎるよ。似合うし確かに素敵だと思うけど、何か変だよ。格好とかじゃない。その、・・・君らしくないよ。さっきから元気ないし、寒い?もう降りる?」
「ううん。寒くない。大丈夫よ。ここでいいわ」
「じゃあ、どうしたんだよ?何があったの?」
彼女は急に黙って僕の額にキスをした。彼女の口唇は鮮やかな赤だったけれど、冷たかった。
「あたしずっと嘘ついてたの・・・」
「え?」
「嘘ついてたの。つい嘘を言ってたの。途中で言うべきだったのに嘘が止まらなかったの。あ、あなたに本当のこと言うつもりがこ、ここまで・・・」
「・・・嘘って?」僕は何だか悪い予感がした。
「あたし、あたし本当はきっと誰も好きになんかなれない。あなたのこと好きなフリして本当は自分が安心したかっただけなの。あなたがそばにいてくれてあたしは本当に安心したと思ってたの。あの八月にあなたが抱きしめてくれたからあたしはそこで今まであったことを捨てようとしたの。でもそれは何処にも行かずにあたしの中にあったの。ずっとずっとあたしから離れなかった。父さんも母さんもあの娘もあの人もあたしの中から何処にも行かなかった・・・」
「別に無理に忘れなくたって・・・」と僕は言った。
彼女は急に泣き始めた。大粒の涙がポロポロ彼女の頬を伝った。「違うの違うの違うの違うの違うの違うの違うの違うの違うの違うの違うの」
彼女はひっきりなしに違うの違うのと繰り返した。一体彼女はどうしたんだ?明らかにいつもと様子が違う。何があったんだ?
「やめろよ。やっぱり変だよ。何があったんだ?何か誰にかにされたのか?何か誰かに言われたのか?」と僕は言った。言った先であのことを思い出した「ひょっとして何か夢を見たのか?悪い夢を見たのか?また、原稿用紙を破られたのか?そんなのは夢だ。ここにある僕や現実とは違う」
「そう、違うわ。違うけどそれはあたしの中に確実にあるのよ。あなたや現実とは別にここに、このあたしの中にあるの」
「いつか忘れるよ。時間が経てば・・・」
「時間?そんな単純じゃないわ。・・・夢は、夢は確かに見てたわ。あの時ほど怖くもないのよ。その内容は。あたしはずっと夢の中であなたを見ていた。あなたは一体何に巻き込まれてるの?何が起こってるの?あの炎の人は何?あなたは何でスラムを走り回るの?何故あなたの周りでは大勢人が死ぬの?何故あなたの努力は報われないの?」
僕はそれは夢だとは言えなかった。彼女の口にする僕の夢は僕自身の現実だった。でも何故?何故彼女は僕の人に言えなかったことを夢で知ることができたんだ?まさかこれは何か仕組まれたことなのか?
「そのうち、またあたしの夢の中で誰かがささやくのよ。あの原稿を破った黒い奴かも知れない。やめろって。君はあの男に近づいちゃいけない。近づくな、さもないとひどい目にあうぞ。あの男は君の可能性を奪うぞって。あいつが言うの?あたしだってあなたの力になりたいわ。でも、あたしは身勝手で自分本意の女だから怖いのよ。邪悪で理不尽で絶対的なものはあたしあらがえないのよ。抵抗できないの。あなたに対して何もできない無力で不完全な人間なの。どうかあたしを罰して欲しい。ここにいるあたしは一人になることを、あなたから離れることを選ぼうとしている」
「待ってくれよ。一人で何もかも決めるなよ。そんなのってないよ」
「きっとあなたは夢のせいにするんでしょうね。でもあたしはそんなことでだけでは決めない。トータルで決めたことなの」
「本当に、その通りにするのかい?」
「あたし間違ってた。あなたのこと好きになっちゃいけなかったの。あたしがいるとあなたが全然前に進めないの。するべきことを放棄しちゃうの」
「・・・そんな・・・」と僕は絶句した。
「でもそうなの。もう決めたの。きっとあたしはもう一生同じことを繰り返すの。誰かがそばにいるだけでその人を傷つけるの。あなたって、偉いのね。あたしにはそんな真似できないわ。あたしは他人に命をかけられないわ。自分のことばっかり考えて。あなたのこと見てるとつくづく自分が嫌になった。あの夢は本当だった。自分勝手なあたしは死んだ方がましかしら」
さよならと彼女は小さく言った。
「さよなら」と僕は言った。
別れの言葉を一つしか知らないことを僕はひどく悔やんだ。
彼女は僕の前から去り、僕は一人『スカイワード・ラダー』のてっぺんで喪失感を味わっていた。
帰り道にスケートリンクでさっきの少女を見た。彼女はあれからずっとターンの練習をしていたのだ。僕は彼女を見守っていたが、彼女は結局ターンを決めることができなかった。僕はスケートリンクを後にした。
さよならという言葉が耳の中でリフレインしていた。
何もかもが通り過ぎた後、僕は一人広場のベンチに座っていた。しばらくの間何も考えられずに辺りの景色を見るだけだった。たまにジェットコースターのカタンカタンという音が聞こえたが他には耳鳴りがしているだけだった。耳鳴りのせいか僕だけ周囲の気圧と差があるように思えた。
気圧の差だった。
僕だけがこの正しく歪められた世界で何か違う存在だった。苦しい思い。辛い思い。悲しい思い。僕だけがマイナスのエネルギーのように感じられた。僕は友人を失い、恋しい人を失い、果ては自分の存在すら失おうとしていた。そして僕をこの世界につなぎ止めておくものはもうないことを悟った。僕は一体何のために生まれてきたのだろう。僕のこの世界での役割は一体何だったのだろう。ただの通行人Cだろうか?それとも背景の木だったのだろうか?死んでいった奴らはあんな死に方をするために生まれてきたのだろうか?何故僕は生かされているのだろうか?僕を含める全ての肯定される存在は誰が支配しているのだろうか?そんなもの存在するのだろうか?]]>
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khmj
REALIZE 第2部
電車を降り、ギャッツのマンションの前に立つまでは何事もなかった。通り過ぎる人も車も空気も普段と変わりないものだった。僕自身も心を落ち着けていた。
しかし、玄関をくぐり、エレベーターに乗ると何かが僕を包み始めた。そのせいで僕は既に幾度となく昇降を繰り返したこのマンションのエレベーターの苦悶的振動を受けながら、震え出しそうな手を握りしめていた。芋虫のような胎動がゆっくりと僕を押し潰すように迫ってきそうだった。エレベーターの中の見えないプレッシャーが僕にのしかかる。僕は隅に追いやられる。昔コメディ映画で観たことがある。狭いガラス張りの個室に巨大な風船を膨らませて中で慌てる連中の滑稽な様を見て大爆笑みたいな奴だ。あの時は風船が破裂してオチがついたけど僕のこの状況と比較するとまだ救われている方だと思う。この沈黙と緊張は破裂ぐらいじゃおさまりはしない。
三階、四階と赤いランプが通過する階を示してくれる。僕は目指す十三階に目を向けていたが五階でふいにエレベーターが止まった。とっさに僕は隠れようとした。けれどエレベーターの中に僕が身体を隠す場所なんてなかった。僕の身体は反射的にびくっと反応しただけだった。上昇感を残したままエレベーターのドアが開いた。開いたその先に不安と少しばかりの恐怖が僕を待っているような気がした。幾つかの理不尽な死が僕のそばを通り過ぎて行った。だからこんなシチュエーションで現れるのはトレンチコートのエージェントか黒くて尻尾の生えた地獄の使いかと思った。
予期せぬ出来事が続くということは、その次からはあらかたの予測がつけられる。僕の言葉だ。つまり傾向と対策だ。悪魔が来るのだと決めつけてしまえば怖いことなんてない。
順番なんだ。ギャッツの言葉が頭をよぎる。
五階での待ち人は結局誰もいなかった。僕はいささか拍子抜けしてしまった。つまらないと言うわけではないが僕がリモコンを取りに行く間に何かしらこの事件に働いている超常の力が僕を襲うような気がして、なおかつそれがふいにエレベーターが止まった五階で起きそうだったから身構えてしまったのだ。
きっと子供のいたずらか、五階の住人がボタンを押してまた忘れものでもして部屋に戻ったのだろうと僕は思った。そうすれば辻妻があうし、納得がいく。
しかしそう決めつけようとした時に僕はハッとした。何故最上階行きのエレベーターが五階で止まるんだ。確かこのエレベーターはそのタイプじゃないはずだ。五階の住人が下降ボタンを押したなら、僕が乗っている時はそれを無視するんじゃないだろうか?僕が降りた後に折り返して五階でドアが開くんじゃないのだろうか?それとも五階の住人が六階より上に行く必要があったのだろうか?こんな夜遅くに、屋上があるわけでもないのに。
またもや不思議な力が僕を苦しめる。何気ないエレベーターですら僕を悩ませる。最上階に到着するまで終始僕はそわそわと落ち着きがなかった。実はさっきの五階で何かが、透明な何かが僕と一緒に最上階に着いた気がしてしょうがないのだ。例の力が結集したような存在が感じられるのだ。掴みどころのない透明で煙のような感触。でもそれも僕の気のせいかも知れない。でも無視できなかった。見ようによっては燃え尽きた彼のようでもあったし、惨殺されたスキニーのようでもあるし、胸を撃たれたデイ・メアのようでもあるし、壁に叩きつけられたギャッツのようでもあった。彼らは死んでからも僕をどこかに導こうとしているのだろうか?僕は何かを果たさなければならないのだろうか?それはギャッツのリモコンを手にすることなのだろうか?そのスイッチを押すことなのだろうか?
最上階でドアが開き、緊張が緩和した。エントロピーの法則に従って収密が拡散に変わる。不均一が均一に変わっていく。たとえ何が僕を導こうとしても、死が待ち構えたとしても僕は僕の法則に従って、僕は僕の役割を果たさなければならない。それが今の僕自身の存在理由のような気がした。
鍵を差し込む手も僕は慎重だった。カチリと音をさせないほど静かに鍵を回す。この前訪ねた時を思い出し、扉を開けるとまたあの香水が部屋の中で蒸せかえっていると思った。しかし、闇の向こうからは何も匂わなかった。僕は扉の間に身体をスルリと忍び込ませた。暗い部屋の中には何の匂いもせず、かえって違和感があった。あの強烈な果実と緑の香りは何処に行ったんだ?僕は玄関で靴を脱ぎ、さらに奥へと進む。
部屋に明りをつけるとあの時散らかっていた衣服はきちんと整頓されていた。ひっくり返された机も椅子も元に戻っていた。ブラウン管を割られたTVはさすがにどこかに捨てられたようだ。引き裂かれたクッションも捨てられたようだ。鏡の割れた風呂場もグラスが砕けた流し台も綺麗になっていた。何もかもこの前はメチャクチャになっていたのに今はきちんと片付けられていた。家の誰か来て片付けていったのだろうか?ウォルトであることはまずないだろう。ともかく夜中に来たのは正解だったようだ。
部屋の主はもういないのに、部屋の中の物たちはまだまだ立派に機能しそうだった。例えば冷蔵庫はあんまり物が入っていなかったけれどちゃんと電気がオンされていた。TVはなかったけれどビデオデッキは生きていた。
僕は部屋のあちこちを見回した後、ようやく肝心なテーブルに腰をかけた。僕はそこにあるのを知っているくせにあえて無視していた。僕はあらためてテーブルに置いてある五つのリモコンたちに目をやった。CDプレーヤー、TV、エアコン、ビデオ、そして例のヤツ。他の四つはどれがどれなのかは見当もつかないけれど、これだけは見間違えるはずはなかった。その存在感は確かに何かを訴えるものがある。不気味な存在。いびつな存在。黒い存在。これがギャッツのかつてのお気に入り、それと同時に潜在的な恐怖をかきたてるリモコン。これ一つのせいで僕の友人は何人も死んでいった。そんな価値があるとも思えない。そんな大した物ではないと言えばそれまでの代物だ。だが、このスイッチを一度押せば、東京が一瞬で吹っ飛ぶ可能性もあるのだ。強い意志さえあればそれは起こりうるのだ。僕は試されている。僕に資格があるか試されている。でも僕にはわからない。僕が持つにふさわしいなんて何を基準に語れるのだろう。
僕は一瞬ためらい、そして一息にリモコンを右手で掴んだ。エクスカリバーを抜いたアーサー王のような気分でもあり、吸血鬼に打ち込んだせっかくの杭をうっかり引っこ抜いた農民のような気分でもあった。
僕はマンションを出て、五分ほど歩いてから大通りでタクシーをつかまえた。電車はとっくになくなっている時間だった。タクシーは高いといつも言っていた僕はあっさりタクシーに乗った。どっちにしろこのリモコンを持ったまま大勢の他の人間の顔は見れなかった。手にはもちろんリモコンが握られていた。気づかないうちにこのリモコンは僕の手にしっかり馴染むようになっていた。今スイッチを押そうとしてもそれは造作もないことだと思った。
何故僕はこんなことに巻き込まれてしまったのだろうか?ネオンの明りが減ってしまった街の夜景を見ながら再びふとそう思った。夜の闇の中に死んでいった連中の顔が浮かんだのだ。
誰もがそう思うように彼はどうして死んだのだろう?ただの狂気?悪ふざけ?否、彼は絶対に何かを計画していた。彼の生々しい砥ぎ澄まされた才能は何かを分岐点として暗くねじ曲がり歪んでしまった。そしてそのエネルギーは死を媒介にして僕らに伝達したのだ。でもそれが本当の目的なのだろうか?ただ恐怖を与えることが彼の狙いなのだろうか?
疑問はまだある。彼はこの世に実在していたのだろうか?少し前までは学校中が彼の存在を知っていた。しかし今となっては彼を知っている者や憶えている者など僕を除いて皆無だろう。今だに連絡の取れない両親なんて本当にいるのだろうか?彼は本当は狂って僕の頭の中で造られた空想の産物ではないのだろうか?ある瞬間に夢から醒めるような現実に帰るのではないだろうか?そうだ!何もかもが夢だったのだ。何もかもが・・・。
僕は瞼の裏の世界に温もりを求めた。
僕の周りにはみんながいた。彼のアパートで仲良くテープのチェックをしていた。ギャッツは笑って「いけね。ここ使わないでくれ。全然だめだ」と言って自分のミスをごまかした。デイ・メアは「きたきた」と言って閃いたアイディアをノートに書き留めている。スキニーは部屋の隅にいたけれど何だか満足そうに微笑んでいる。彼は台所で何か洗いものをしていた。学校では直伝が僕にシュートのやり方を教えてくれた。「こうですよ。こう」夏の式典は暑かったけれど兵隊たちもデモ隊も仲良く肩を組んで行進をしていた。かつての僕の友人は対テロ部隊と一緒に参道から手を叩いていた。コロンボは頭をかきながら銃を手入れしていた。「最近はめっきり使いませんよ。こんなの」ダークアイは誰もいない化学室で三角フラスコと試験管を綺麗に洗っていた。底に溜った白い粉は下水に流れていった。やがて僕は掃除をしていた。『ダグ・ダック』でバイトの兄さんと掃除をしていた。僕はグラスを磨き、野菜を切り、開店の準備をする。それから東京エデンでも掃除をしていた。ストリートが横でゴミ箱の中身を回収している。僕に「今日の夕飯は何だっけ?」と聞く。今日は和風ハンバーグだ。バイト仲間とは大浴場で今日何があったかをリハビリのように語り合う。みんなで『TAKE ME HOME』を唄った。食堂ではオウムもペーもキドリも一緒になって和風ハンバーグを食べていた。キドリは目がいってしまっていて、ブツブツ呟いている。オウムもそれを真似してブツブツ言っている。ペーは急に特攻服に着替え、「僕だって戦えるんだ」と窓に向かって叫んだ。僕は黙って和風ハンバーグを食べた。向こうのヤングレストではピックアップやサラマンダーやカスタードや黒人が一緒になって酒を飲んでいた。もういかがわしい話しはしていない。港湾労働者のおじさんと仲良く何かを話している。
僕が食事を終えると、奥の厨房にいる彼はまだ洗いものをしていた。再び彼の部屋に戻る。僕が呼びかけても彼は応えなかった。後ろにいるギャッツやデイ・メアは僕と彼のことなど知らずに何かを話し、笑っている。彼の異変に気づかない。やがて彼の後ろ姿は徐々に黒くなっていった。僕は様子がおかしいことに気づき、ジャバジャバと水道の音がする流しをのぞき込んだ。
僕は息を飲んだ。
そこには血だらけの包丁を洗う彼の手があった。振り向いた彼は、あの忌まわしい黒い塊に変わっていた。
そして僕は衝撃を受け現実にかえった。悪夢を見た時と同じようにビクッと身体が跳ねた。タクシーの運転手がお客さん大丈夫?と心配した。
「い、いえ、大丈夫です。大丈夫です・・・。ちょっと眠っちゃって」
「ああ、わかるよ。でもそういう時の夢に限って、憶えてないんだよな。一瞬のことなのにね」とタクシーの運転手は言った。
夢なんかじゃない。どこに逃げても僕はここに戻るんだ。手に持ったリモコンが全てを語っていた。全てこれに結び付き、これが現実なんだと。]]>
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2008-01-01T20:29:23+09:00
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khmj
REALIZE 第2部
何度も確かめたけれどギャッツは死んだ。マイケルに壁に叩きつけられたのが原因だった。僕は息絶えたギャッツのそばでしゃがみ込み、無言で何度もお別れをした。廊下に転がったマイケルは完全に機能を停止し、少しも動かなかった。
事件の起きた病室に一番初めにやって来たのはコロンボだった。何人もの部下を連れ、警察でもないのに現場の処理と検証を始めた。コロンボは落胆する僕にあたしが悪いんだと何度も謝った。こんなことになるなんてと何度も言った。僕は何も言えなかった。ただコロンボはちっとも悪くないと思った。何かが悪かったんだと言いたかった。その何かが言えなかった。誰とは言えなかった。
僕は黙ったまま病室を出た。何が起きて、どうしてギャッツが死んで何者かがマイケルを撃ったことを説明しなければいけなかった。事件の事情を少しでも言うべきだった。
でも、もう誰がどうなろうとも知ったことではなかった。何が起ころうと気にしなかった。全ては終わったことだった。何故戻らないことを二度も三度も説明しなければいけないんだ。この哀しい気持ちはなんだ?何故こうもあっさり人は死ぬんだ?何故僕をおいていくんだ?
僕は病院をあとにしても涙一つ流さなかった。哀しいことがあったのに涙が出なかった。強がるつもりも堪えるつもりもなかった。昔はちょっとのことで泣いたのに今は泣かなかった。
そして例によって次の日のニュースにギャッツの死は報じられなかった。
例によって次の日のニュースにギャッツの死は報じられなかった。どうせ『シンクレア』がそれを嫌ったのだろう。警察にだって知らせない気だろう。連中はそうやってコントロールしているんだ。知りたいことと知りたくないことを。僕は既に知っているから誰の口からであろうとそのことはもう聞きたくなかった。
どれほど一人でいたくても電話は鳴った。僕が寝ている時も起きている時も鳴った。一体僕に用があるのは誰なんだ?僕の気持ちを知っているならもうそっとしておいてくれ。僕に構わないでくれ。十数回を数えるコールに嫌気がさし僕はとうとう電話線を電話機から引き抜いた。それで電話は死んだ。これで僕につながっている何本かの線の内の一つが切れた。スッパリと。
気持ちが楽になりソファーに寝転がる。でもすぐに落ち込む。
ギャッツは僕の友達だった。
ハハハハハハとギャッツは笑う。ギャッツは怒る。ギャッツは憎む。およそ人間の感情をフルにして放出する。ギャッツは僕を癒す。そして傷つける。でもそれは僕を対等の人間として見ていてくれたからだ。僕を見下すことなく、僕を敬わず。
「お前は友達さ。それだけだよ」
「お前は友達じゃねえ」
「お前はでもなんでもねえ」
ギャッツはいつも言うことが違う。でもそれには理由があるんだ。一つの言葉だけを受けてはいけない。ギャッツの言葉は全て聞くことで意味があるのだ。
ギャッツは僕たちに失望したと言っていた。死んだ彼の引き継ぎ作業をしたデイ・メアや僕を憎んだ。きっとそれは普通の人間なら誰もが思うことだろう。苦痛と恐怖をわざわざ体感しに行ったんだ。道連れなんてまっぴらだろう。ギャッツは出口を探していた。行く道を封じ込まれ、助けを求めて叫び続けていた。ギャッツは父親に勝てない自分に絶望し、リモコンを押せない自分に絶望していた。たぶん本当は出口なんて幾らだってあったはずなんだ。妥協でもなんでもあったはずなんだ。そのどこかの出口は。でもギャッツはあえて歪んだ出口を選んでいたんだ。自分と同じ形に歪んだ出口を。
幾ら弁解してもギャッツがデイ・メアを殺した事実は残るだろう。でも、それでも僕の友達だった。僕たちは生きていく上でいつも何かの罪を犯すんだ。それを償いながら、後悔の念を消すんだ。ギャッツはそれを人の何倍も自覚しながら生きていくはずだった。それも一つのやり方だったはずだ。
僕はギャッツの笑い声に何か信頼感を覚えていた。不安を吹き飛ばす笑い方が好きだった。色々共通する部分、釣り合わない部分が好きだった。これから先も僕の不安を吹き飛ばして欲しかった。ハハハハハハってね。
僕はブツブツと未練がましくサヨナラを繰り返し呟いていた。これが最後、これが最後だと繰り返しながらサヨナラを繰り返していた。頭でわかっていても言葉を閉ざしてしまえば本当に終わりが来るような気がした。
終わりが来る・・・。
僕は何も言ってるんだ。僕は馬鹿だ。本当は終わりなんてとっくに僕の足元に転がっているんだ。僕は見えないフリをしていただけなんだ。僕は再び訪れた鮮やかな夕日に向かい、さよならギャッツこれが最後だと口に出さずに言った。
夜がやって来た。
一晩経って、とにかく僕のすべきことは一つだった。ギャッツの言うもしもの時がきたのだ。ギャッツのリモコンは僕が手にすべきなのだ。色んな経緯があった。でも結局これが導いていることなのだ。それがギャッツの意志であり僕のなすべきことなのだ。
僕はギャッツのマンションの鍵を手に深夜に実行を開始した。]]>
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2008-01-01T20:27:13+09:00
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REALIZE 第2部
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2008-01-01T20:22:39+09:00
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khmj
REALIZE 第2部
僕は護衛の懐にあった銃を気づかれないように素早く、ジーパンの後ろに隠した。背中に冷たい金属の感触がした。僕は静かにゆっくりと病室に入った。
「やア、ゲ、ゲンンキかい?」とマイケルは言った。その声は壊れた電子音のするテンポのずれた異様な声だった。
「声、どうしたの?」
「どうもアの時の攻撃でお、おかしくなってね・・・、コ、故障したらしい。気に障ったらゴメン」
「いや、別にいいよ。さっきの呼び出しは君だろ?」と僕は聞いた。
「ソ、そうだヨ。君がいると何かとトラブルが起きるカラからこっウそりこの彼を連れ出そうとシタしたんだが、どうやら駄目ダメだったようだねネ」マイケルは人一人を持ち上げていても平然としていた。その右手の先でもがいているギャッツは既に意識があるようだが身体に上手く力が入らず声も出ない。
「・・・そいつは僕の友達なんだ。早く降ろしてくれ」
「いいヨ、でも彼の持つリモコンを渡してくれたらね。シン配することハなイイ。テープはもういらないよ。もうないんだろ?上からのお達しでね、僕は任務から外されることになったんだ。ちょっと湾岸で派手にやりすぎたからね。たぶん今度は砂漠のある湾岸で仕事をしそうだよ。明日にも本国に帰らなくちゃいけないんだ。今夜は君にお別れを言いに来た。それと手土産にリモコンをね」とマイケルは言って手を差し伸べた。「君も知ってるんだろ?リモコンはどこだ?こっちによこしなよ。そうしたら彼を解放する。プォーッ。ンッ、ダッ」
「リモコンが何をするものか知っているのか?」
「モチ、もちろん」
「『シンクレア』は君の組織と取り引きしたんだろ?もう作戦は中止したんじゃないのか?何故今更こんなことするんだ?」
僕がそう言うとマイケルは機械の部分も含めて不思議そうな顔をした。
「ト、ト、取引?何のことだ?ダ?作戦が中止?どういうことだ?」ギャッツを持ち上げた手の位置が少し下がった。
「知らないのか?元々君の組織は『シンクレア』を潰す気なんかなかったんだ。ただ『シンクレア』の異常な企画力が必要だったんだ。そのために君は行動していたんだ。君はただの獲物をおびき寄せるためのエサみたいなもんだったんだ」
「う、嘘だ。ウソダ」とマイケルは言った。急に機械の目が激しく点滅した。
「僕が嘘をついているかどうかなんてすぐわかるんじゃないのか?それとも故障しているのか?」
「ボボボボボボボ僕は何も聞いていないぞ。ウウウウウ嘘を言うなナナピピピ。ボクボクはリモコンを持ってニニニン任務に戻るんムニモドルンダだ。でで、デモ安心して。ボ僕は君と命のやり取りをするつもりはない。僕はきき君が好きだからねプォーッ」マイケルはもう片方の手でギャッツの首に手をかけようとした。マイケルは明らかに冷静じゃない。正常じゃない。それが被弾したせいか今の話しのせいかわからない。でも今のマイケルはもう手加減をするつもりはないんだ。逆上させたらまずい。壊れたオモチャの兵隊よりタチが悪い。
「わかった。わかったよ。渡す。渡すから。彼を降ろしてくれ」
「本当かい?」
「ただ、ここにはないんだ。リモコンがある場所を教えるから、早く彼を降ろせ。降ろしてくれ」
「よし、いいだろう」マイケルは急にギャッツをベッドに降ろし、僕の方に向いた。人間の顔の部分が微笑んでいる。ただ機械の部分の顔は全く無表情だった。表情とはおおよそ筋肉で表現されるものだということがわかった。「ピ、ペ、じゃあああいマからつれていってってってモモらおうか」
マイケルは僕にゆっくりと近寄った。マイケルの動きはどこかぎこちなかった。左右の足のストライドが違ったし、手の動きもバラバラだった。口がパクパクとひっきりなしに動き、全く瞬きせずに僕を見ていた。
ギャッツはマイケルの背中を見ながら咳込んでいた。チクショーッ、クソがと叫びながら天井を仰いでいた。僕は少しほっとした。とりあえずマイケルの注意ををギャッツから反らさねば。
「リモコンをどうするつもりなんだ?きっとそんなもの持って返っても君の組織では誰も喜ばないぞ。そもそもこんな所で行動したって誰も喜ばないぞ。明らかに暴走行為だ」
「ソソそンなデタラメ言うなよダッ」
「違う。本当のことだ。でもそれで気が済むなら持って行けよ」と僕は言った。だがどうする?このままマイケルをギャッツのマンションに案内するのか?またマイケルと行動するのか?コロンボはその間援護なり救助してくれるのか?僕のいらぬ想像をよそに、ギャッツは行動を起こした。ギャッツは枕の下から銃を取り出し、おまけに横の引出しから隠していたマガジンをセットしたのだ。僕は驚いて、しばらく身体が動かなかった。ギャッツは怒りの眼差しでマイケルを見ていた。その目は今まで見たこともないような憎しみに満ちた目だった。
「ふせろ!」とギャッツは僕に叫んだ。
僕は我に帰り、その言葉に従って床にしゃがんだ。冷静さを欠いたギャッツの射撃がどこまで正確かはわからなかった。ひょっとしたら僕に当たるかもと思った。
「死にやがれ!バケモノ」
ダンダンダンダンダンッ!
ギャッツは続けざまに五発撃った。マイケルは振り向きながら胸に全弾を受けた。ここで全てが終われば良かった。しかし悪夢は終わらない。おそらくマイケルに普通の銃弾は通用しない。豆粒のような弾丸ではマイケルには効果がないのだ。
「なんだ!こいつは!本当にバケモンか?」とギャッツは驚き、目を剥いた。「クソッ!死ね死ね。もう俺たちに関わるんじゃねえ。もう出て来るんじゃねえ」さらに二発撃った。マイケルはまたもや避けようとしなかった。
「フウウ、全く君たちはすぐに逆上して困るなあ。もうちょっと。クールにしてくれよ」マイケルはギャッツの銃を掴むとあっさり両手で銃身を握り、曲げてしまった。そしてギャッツの右腕に手刀を叩き込んだ。
「ウギャッ!」ギャッツは叫びベッドの上で狂ったように暴れた。おそらく今の一撃はギャッツの二の腕の骨を折ったに違いない。僕もあの夜の骨を折られた時の痛みが蘇って背筋が寒くなった。
「ここ、これでくーるになったかな?」
「オイ!こいつか?お前を狙ったのは」ギャッツは腕を押さえ、痛みを堪えながらマイケルを通り越して僕に呼びかけた?
「そうだ!わざわざ東京湾の海底まで追ってきてくれたんだ」と僕はしゃがみながら叫んだ。
「ケッ、それでドジってこのざまか?おまけに組織からは見捨てられたんだろ?ダサダサだな。バケモノ。違うか?」
「君はキミみみハぼ、僕を怒らせたいいんかかかかかなナナナナナ、腕をボ僕を腕を折るだけジャスマスますま済まないようよ」
「どもってんじゃねえよ。故障品」ギャッツは無理にマイケルを挑発する。
「モチモト元モト君の親父さんがイケイケいけないんピだポよ。アの狂人が悪いことの元凶だダだダ。君はそれをわかっテテているのか?いやわかってイアいういないのかカカ。君ミはあの男ほフォどの才能はナカなかったわけだからねネネ」
「うるせえ。それっくらいはわかってるってんだ。テメエに言われたくねえよ。この勘違い野郎。戦争をなくしたいだと。テメエにはできねえよ。テメエには何もできねえ。お前にできることは人傷つけて殺して殺して殺して殺しまくることだけだ」
「君はどうやら死んだ方がいいみたいだな」マイケルは再びギャッツを前にして目を光らせた。
「やめろ!やめないと、撃つよ」と僕は背中の銃を持ってマイケルに向けた。銃を人に向けたのは初めてだ。それにマイケルには銃が効かないのはわかっていた。でも今はなんとしてもギャッツを守らなければ。もう誰にも死んで欲しくないんだ。もう誰にもいなくなって欲しくないんだ。もしそんな風に運命が罠を張り巡らしているんなら、僕は断固としてそれを阻止してやる。そんなことをさせてたまるか。
「よしなヨ、そんな物騒なもの君には似合わアナないピぜ。さあハ、プ渡せよ」マイケルは急にこっちを向いた。やはりマイケルはどこかおかしい。普通なら僕のことなんか無視できるはずなのにまたギャッツの元を離れて僕に近づいて来た。頭の悪いハッピーマンを相手にしているみたいだ。ギャッツと充分な距離をとったところで僕は引鉄を弾いた。
バンッ!
「おっと」しかしマイケルは軽がると避ける。
バンッ!
「無駄だって」
マイケルは足を高く振り上げ、バシッと銃を蹴り上げた。銃は弾き飛ばされ僕の足元にに転がった。マイケルは蹴り上げた足で僕の胸を撃った。僕は弾き飛ばされ、そのまま病室の壁に頭を打った。僕は床に崩れ、自分でも何がなんだかわけがわからなくなった。そしてマイケルは今度は僕に迫り、掴みかかろうとした。
「テメエッ!」
しかしその間際、銃を握ったギャッツはマイケルに背中から飛びかかり、腕が折れているにも関わらずマイケルの首を絞めた。マイケルは不意を突かれ、慌ててギャッツを振り切ろうとした。しかしギャッツの両腕は背後からがっちり首を捕らえ、なかなか離れなかった。
「早く逃げろ!」とギャッツは叫んだ。
僕は意識が朦朧として、上手く立ち上がれなかった。
マイケルは腕を後ろに回しギャッツの背中を掴むと上半身をかがめてギャッツを背負い投げのように床に叩きつけた。
「グワッ」とギャッツは叫び声を上げて、床に転がった。
「全くいいかゲンにしてくレよナ。ピッ。君みたいなヤツがボク僕はきキライナンダ」
軽々とギャッツの身体を持ち上げ、一瞬にして放り投げた。ギャッツは身体がフワリと宙に浮き、壁に叩きつけられた。ギャッツの銃は廊下の向こうの角まで飛んでいった。
「グッフッ!・・・」
たぶん即死だったと思う。
床に伏したギャッツの口から赤い血が溢れていた。目は天井を見ていた。ピクリとも身体が動かなかった。ギャッツは僕にサヨナラの言葉一つ 言わずに死んだ。
僕の足元にはさっきマイケルに蹴られた『スパイダーⅣ』が転がっていた。僕はその銃を手に取り、怒りに任せて何回かトリガーを絞った。だが二発胸に当たってもマイケルには通用しなかった。五、六発僕は銃を撃ち続けた。繰り返される反動で僕の手がしびれた。
平気な顔をしたマイケルはすかさず僕の前に立つと、僕の胸倉をグイッと掴み、そのまま持ち上げらた。僕が必死の抵抗をしてもその手を外すことができない。
クソッ!
こんな破壊の意志に、いずれ崩壊する文明の結晶に僕は殺されるというのか?
冗談じゃない。そんなものにやられてたまるか。そんなものにやられるか。僕は必死に抵抗した。全ての偶然が僕を導き、ここで終わるのか?ここでもがき死ぬのか?クソッ。
「さあ、観念シなよ。ンダッ!」
マイケルは機械がさらけ出た顔を突き出し、僕の首に手を伸ばし、力を込めようとした時・・・。
バンッ!
突然どこからか銃声が聞こえた。あの音は『スパイダーⅣ』だ。マイケルは何が起こったのかわからない表情で僕を見つめる。既に僕の首にかかった手には力が入らないようで徐々に位置が下がっていく。マイケルの装甲のめくれた首から白い煙がわずかに吹いている。さっきの銃弾はどうやらここに当たったのだ。マイケルはまだ僕を見ている。いや、視線が固定されているんだ。その証拠にマイケルが足のバランスを崩した時も僕を見ていたはずの目が全く動かずにいた。僕は床に足をつけることができたが、マイケルはさらに膝が折れ曲がり倒れ込んだ。そして前のめりに僕に覆い被った。支えようとしたがあまりの重さに僕は尻もちをついた。重量物がずしりと僕にのしかかる。
マイケルは口から妙な電子音が聞こえる。オルゴールの様な音も聞こえる。あれだけの攻撃に耐えるマイケルもその内側のエレクトロニクス部分は弱かったらしく、そこから思考の中枢をやられたらしい。痙攣しながら何かを口ずさむ。
「世界をより善くしたいのなら
我が身を振り返り
自分自身から変えていくのさ」
少しの間。
「世界をより善くしたいのなら
我が身を振り返り
自分自身から変えていくのさ」
少しの間。
「世界をより善くしたいのなら
我が身を振り返り
自分自身から変えていくのさ」
マイケルは壊れたオルゴールのように歌を繰り返した。
僕は倒れ込んできたマイケルの身体をどけると、ギャッツに近寄った。やっぱりギャッツは何も言わず、死んでいた。
マイケルは「Make that change」と言って動かなくなった。
僕は銃声のあった廊下の曲がり角を見た。しかしそこには誰もいなかった。火薬の匂いの残るギャッツの銃が廊下に転がっていた。]]>
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